消費増税前後の買い時と売り時

RSS

2019年07月31日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦

10月からの消費税率の引き上げはほぼ確実な情勢となった。今回の消費増税では、前回増税(2014年)後の個人消費停滞の経験を踏まえて、増税による負担増を軽減するための大規模な経済対策が実施される。対策の目玉の一つは、キャッシュレス決済へのポイント還元制度であり、最大で5%と消費税率の引き上げ幅よりも大きなポイントが付与される。この制度を活用すれば、家計は増税後のほうが商品やサービスを実質的に安く購入できるケースは多いとみられ、駆け込み需要とその後の反動減を軽減する効果が期待されている。

だが、増税後のポイント還元が全ての小売店で受けられるわけではないという点には注意が必要である。5%のポイント還元の対象となるのは中小企業や個人が経営する小売店での消費に限られており、コンビニエンスストアや外食などのフランチャイズ店舗での還元率は、増税幅と同程度の2%となる。また、これら以外の小売店、例えば大手スーパーや百貨店などでの消費については、ポイント還元の対象とならない。

となると、増税後の経済対策によって相対的に不利な状況に置かれる大型小売店の立場からすれば、駆け込み需要を積極的に喚起することによって、増税前に収益を積み増しておくことが最適な戦略となりうる。実際、大型小売店などでは、「増税まであと○日」など、駆け込み需要を積極的に喚起するような看板を大々的に掲げているのを目にする。本来、消費者が消費増税による影響を最大限軽減するためには、経済対策を踏まえた上で増税前後の消費行動を検討する必要がある。しかし、一般の個人がそうした経済対策を完全に理解することは容易ではないと考えられ、小売店に勧められるがまま増税前に購入する可能性が十分に考えられる。

こうした事情に鑑みると、経済対策による駆け込み需要、反動減を抑制する効果は、想定よりも小さなものになるかもしれない。消費増税による個人消費への影響の本質は、物価上昇による実質所得の減少であり、増税前後の駆け込み需要や反動減はあくまで短期的な振れにすぎない。しかし、企業の想定を上回る需要の大幅な変動が起これば、在庫調整圧力などを通じて、悪影響が長期化する可能性があり、駆け込み需要、反動減の動向についても注意深く見ていく必要がある。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

橋本 政彦
執筆者紹介

ロンドンリサーチセンター

シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦