リスク・リテンション規制はCLOへの投資を抑制するか
2019年06月11日
4月の日本銀行の「金融システムレポート」で、金融機関が、CLOと呼ばれるローン担保証券等を中心に海外クレジット商品への投資を増加させていることが指摘されている(※1)。CLOは、低格付けの企業向けローン(レバレッジドローン)を裏付資産とする証券化商品である。
証券化商品については、この3月末から、銀行等の自己資本比率規制において「リスク・リテンション規制」が導入されている。リスク・リテンション規制とは、銀行が証券化商品を保有する場合において、証券化商品を組成したオリジネーターが自ら原資産の5%以上を保持していなければ、原則としてリスク・ウェイトを3倍に引き上げるという規制である。
2008年の金融危機の際、一部の金融機関がリスクの高い債権を証券化し、投資家に販売することでリスクを転嫁していたことが問題視された。リスク・リテンション規制は、オリジネーターに対して、組成した証券化商品の一部を保持させることによって、投資家と利害を一致させる狙いがある。しかし、リスク・ウェイトを3倍に引き上げるという厳しい扱いがなされるため、金融機関の関心が高く、規制の導入時には反対意見も寄せられた。
このリスク・リテンション規制には、2つの例外が定められている。まず、規制が導入された2019年3月31日時点で保有し、その後保有を継続しているものには適用されない。つまり、規制以前から継続保有している証券化商品には影響はない。
加えて、不適切な原資産の組成がされていないと判断できる場合も、リスク・ウェイトを3倍にするという扱いは適用されない。そのような場合に該当するためには、原資産の質について深度ある分析を行うことが重要であり、「証券化商品の外部格付けや原資産の市場での取引価格、原資産の短期間(特に好況期)のパフォーマンスのみをもって判断することは不十分」と金融庁は指摘している。
つまり、運用体制が整備され、投資対象のリスクをきちんと把握できている金融機関であれば、リスク・リテンション規制は適用されない。そのため、リスク・リテンション規制の導入はそのような金融機関に対しては、CLOへの投資を妨げないと考えられる一方、運用体制の整備が不十分な金融機関は投資が難しくなると考えられる。
(※1)日本銀行「金融システムレポート」(2019年4月)p.24
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