連邦と州、軍配はどちらに?
2019年05月08日
昨年(2018年)4月、米SEC(証券取引委員会)は、ブローカー・ディーラーと投資アドバイザーの行為基準を強化するなどの規則および解釈案を公表した。具体的には、①証券会社(ブローカー・ディーラー)に対して、自己の利益より顧客の最善の利益のために行動することを義務付ける、②投資アドバイザーが顧客に対してフィデューシャリー・デューティーを負っていることを明確化する、などである(※1)。昨年8月までパブリックコメントが行われ、現在それをもとに修正等が行われている模様である。今年9月には新規則が公表される見込みとなっている。
SECが公表したこの規則案に対して、民主党が優勢な複数の州当局は反対しており、実際に州独自の規則を提案する動きも見られる。反対の理由は、ブローカー・ディーラーと投資アドバイザーは投資家から見れば同様のサービスを提供しているにもかかわらず、両者の責任の差により投資家保護の程度が異なるのは不合理であり、両者に統一した基準を適用すべき、などである。
ニュージャージー州当局は今年の4月15日に、投資家に投資アドバイスを提供するブローカー・ディーラーや投資アドバイザーなど同州に登録する全ての投資専門家に対しフィデューシャリー・デューティーを課す、統一フィデューシャリー基準(Uniform Fiduciary Standard)を提案した(※2)。ネバダ州当局も同様の提案をしている(※3)。
こうした州当局の動きに対して、SIFMA(証券業金融市場協会)などの業界団体は、連邦と州で異なる規制を適用することは投資家の混乱を招き、投資家の情報アクセスや商品選択を狭めることになる、などと警告しており、SECによる連邦での統一した規則制定を支持している(※4)。
また、一部大手金融機関は州独自のブローカー・ディーラーに対する規制強化の姿勢に反発しており、それらの州からの業務撤退も示唆しているという。
今後、SECの規則と州の規則のいずれが優先するかにつき訴訟に発展するとの指摘もある。ブローカー・ディーラーに投資アドバイザーと同様のフィデューシャリー・デューティーを課すか否かというこれまで米国で20年以上続けられてきた議論について、SECの規則が最終的に公表されれば終止符が打たれると思われていたが、引き続き議論が続く可能性がある。投資家保護や金融機関の対応の観点からも早期の解決が望まれる。
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金融調査部
金融調査部長 鳥毛 拓馬
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