デジタル課税の行方
IT大手だけでなく、伝統的企業も課税強化の恐れ
2019年03月13日
2月、OECD(経済協力開発機構)がデジタル課税案のペーパーを公表した。デジタル経済の時代に国際課税のルールが追いついていないため、IT大手への課税を強化する内容だが、従来のビジネスモデルの企業も対象とされる恐れがある。
現行の国際課税では、企業が海外でビジネスを行う場合、現地に拠点(恒久的施設)がなければその国で課税されないという原則がある。そのため、IT大手のように、現地に拠点を設けずにインターネットを通じてサービスを提供する場合、現地国で課税されない。そこでOECDは、拠点がなくても現地国に課税権を認める3つの案を公表した。
一つ目は英国案で、SNS、検索エンジン、オンライン・マーケットといったデジタル企業のビジネスは、ユーザーの貢献が重要であることに着目する案である。その企業の所得のうちユーザーの貢献部分について、ユーザーがいる国に課税権を認める。
二つ目は米国案で、企業がブランドや顧客データ・顧客リストなど、マーケティングを通じて無形資産を有していれば、その無形資産が生み出されたマーケットのある国に課税権を認める案である。
三つ目は、企業が現地通貨で決済を行っていたり、現地語のウェブサイトを作っていれば、現地国に課税権を認めるものである。
OECDのペーパーは、このうち特に英国案と米国案について検討しているが、重要な点は両者を対立的に捉えるのではなく、統合しようとしていることである。企業がX国にデジタルサービスを提供して販売活動を行う場合、X国にユーザーがおり、マーケットも存在するため、いずれの案でもX国に課税権が認められる。各国が合意できる案をまとめるという観点からは、両者の統合案を作ることは合理的なやり方である。
ただ、両者には大きな相違点もある。英国案は対象とするビジネスモデルをSNS、検索エンジン、オンライン・マーケットに限定しているのに対し、米国案はマーケティングによる無形資産を有していれば、伝統的企業でも課税の対象になりうる。
現時点でどの案が採用されるかは不明であるが、米国案が有力とも報じられている。しかし、米国案について、ペーパーは、課税対象をマーケティング無形資産が利益の獲得に相当程度貢献するビジネスに限定すべきとしている。経団連も対象業種を限定すべきとしている。
ただ、英国案、米国案又はそれらの統合案のいずれが採用されるとしても、企業の所得のうち、ユーザーあるいはマーケティング無形資産が貢献した部分がいくらなのかを、明確に特定する必要がある。さもなければ、企業がサービスを提供している国のそれぞれが、自国に課税権があると主張して二重課税が生じるだろう。そうなると、結局、企業にしわ寄せがいき、IT技術の発展を阻害しかねない。
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