広がる政府閉鎖の波紋

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2019年01月23日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦

米国南部国境への壁建設費用を巡るトランプ政権・共和党と民主党の対立によって予算が失効し、昨年12月22日から始まった政府機関の一部閉鎖は、クリントン政権時の21日間を上回り、過去最長を更新した。政府閉鎖が長引くにつれ、その悪影響は着実に広がりつつある。

言うまでもなく、最も直接的な被害を受けているのは、連邦政府機関で働く政府職員であろう。今回の政府閉鎖によって一時帰休、ないし無給での勤務を強いられている連邦政府職員の数はおよそ80万人に上る。給与の支払いが滞っていることで、家賃の支払いや、住宅ローン、自動車ローンなどの債務返済が困難になり、生活費を稼ぐために副業を始めたり、クラウドファンディングによって援助を募る政府職員も増えているという。こうした事態を受け、FRB(連邦準備制度理事会)をはじめとする金融当局は金融機関に対して、政府閉鎖の影響を受けた顧客への救済措置を呼びかける声明を共同で発表した。

政府機関の手続きが滞ることによる経済活動への悪影響も既に顕在化している。例えば、FHA(連邦住宅局)による住宅ローンの設定に遅れが生じ、住宅購入の契約への影響が伝えられている他、SEC(証券取引委員会)ではIPO審査の遅れが報告されている。商務省などが作成する政府統計の一部は公表が停止されており、景気動向の把握が困難になることで金融政策運営や金融市場に影響が及ぶことへの懸念も高まりつつある。

トランプ大統領自身についても、政府閉鎖を理由に世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)への出席を取りやめた他、警備上の安全確保に対する懸念を理由に1月29日に予定される一般教書演説の延期が提案されるなど、業務に支障を来し始めている。また、政府閉鎖期間中にホワイトハウスで開催されたパーティーでは、ホワイトハウス職員が一時帰休中だったことにより、ゲストをもてなすために、トランプ大統領が自腹で大量のファストフードを購入する羽目になったという(もちろんパフォーマンスという意味合いも強かったと思われるが)。

だが、こうした様々な悪影響が明らかになりつつも、トランプ大統領は対立する議会民主党への批判を強めるばかりであり、歩み寄りは全く見られない。

政府閉鎖開始以降に実施された各種世論調査によれば、いずれの調査においても今回の政府閉鎖に関してトランプ大統領に責任があるという意見が国民のおよそ50%を占め、議会からの提案を拒否し続けるトランプ大統領への非難の声は日に日に高まっている。一方で、南部国境における不法移民の問題は「危機」であり、壁を建設するべきであるとの回答も全体の4割程度を占め、トランプ大統領の対応を支持する声も少なくない。政府閉鎖の根本には不法移民を巡る米国民の意見対立の根深さがあり、トランプ政権・共和党、民主党ともに互いに退けない状況にある。

政府閉鎖が長引くほど米国経済・社会に与える悪影響が拡大することに疑いはなく、トランプ大統領や議会も重々承知のことだろう。だが、トランプ政権・共和党、民主党のいずれかが看過できなくなるほどまで悪影響が拡大しなければ、対立は収束に向かわないと思われる。事態はもはや我慢比べの様相を呈しており、平穏な解決は期待できない。

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橋本 政彦
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