時代に合わせて変わる数字

~紙おむつは大事です~

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2018年11月28日

我々のような経済データを使って仕事をしている者にとって、政府の発表する数字、例えばGDPや消費支出、雇用者報酬、企業収益などは絶対的なものであり、政府の調査に対して、企業や国民が正確に回答し、正直に申告されていることが大前提になっている。とはいえ、これらの数字は過去に遡ってリバイスされることがよくあり、既存のデータを基にした分析が無駄になってしまうケースも少なくない。

直近で言えば、2018年7月末に米国のGDPが改定された際に、家計所得の上方修正を受けて貯蓄率の過去分が引き上げられた。特に、2017年以降の修正幅は、四半期平均で約3.4%pt(従来3.4%→今回6.8%)に及んだ(※1)。改定前の貯蓄率は、リーマン・ショック前以来の低水準となり、借金をしてまで消費に励んでいる可能性が指摘され、個人消費、延いては景気拡大の持続性が懸念された。だが、改定後は、先行きの消費に対する警戒感が和らいでいる。

数字の修正は日本も例外ではなく、2016年12月に実施されたGDPの基準改定により、個人消費が大きくリバイスされた。つまり、前回2005年基準では、2014年4月の消費増税直後の個人消費は低迷したままだったが、2011年の経済構造に基づいた現行の基準では、2014年7-9月期から2015年1-3月期にかけて回復する姿に変化した。また、2018年11月にGDPが公表された時には、2018年上期の名目雇用者報酬が年率換算で約1.1兆円も下方修正され、それに比べれば10億円や100億円ぐらいは誤差の範囲かもしれない。もっとも、国や企業による粉飾が発覚した場合には、大きな混乱を引き起こすケースが多く、2009年10月に発覚したギリシャの財政統計不正はその最たる例であろう。

最後に、3週間前に公表された、鉱工業指数の2015年基準改定を紹介したい。業種別ウェイトの推移からは、人々の嗜好の変化や産業の栄枯盛衰が見て取れる。2015年基準において最もウェイトが高い業種は、自動車に代表される輸送機械工業であり、5年前からはやや低下したものの、全体の2割近くを占めている。電子部品・デバイス工業や情報通信機械工業、化学工業などもウェイトを低下させたのに対して、意外にも食料品・たばこ工業が大幅にアップした。1995年~2010年基準まで7%程度だったウェイトが2015年基準では13%と約2倍に膨張し、輸送機械工業に次ぐ存在となったのである。

ウェイト見直しと同時に、採用品目の見直しも実施された。ウェイトが高まった食料品・たばこ工業の品目を見ると、バターやソース、トマトケチャップなどが廃止される一方、パンや即席麺類、味そ、しょう油などが10年ぶりに復活した。味そやしょう油は、国内消費が頭打ち状態である点に鑑みると、好調な輸出が影響したのだろうか。また、パルプ・紙・紙加工品工業では、乳幼児用紙おむつと共に、大人用紙おむつが新規に採用されており、高齢化社会の現実を表していると考えられる。このように、実態をより正確に把握するためには、経済社会構造の変化を反映した基準改定は必要不可欠な対応といえよう。

一方、制度変更といった特殊要因で数字が大きく変動することは、状況を把握しようとする観点からは厄介な問題である。現在、2019年10月の消費増税を前にして様々な景気対策が検討されているが、何でもOKという盛りだくさんな政策の効果の有無は別にして、数字の解釈が複雑かつ困難になることだけは間違いないだろう。

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近藤 智也
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政策調査部

政策調査部長 近藤 智也