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経済統計の宿命

2003年12月16日

経済調査部 シニアエコノミスト 近藤 智也

先日、日本のQ3のGDP成長率改定値が前期比年率2.2%から1.4%増に下方修正されたことについて、「改定のたびに大きくぶれている。政府の景気判断の信頼性が揺らぎかねない」という模範的な記事を目にした。ただ、統計のブレという点では米国も例外ではなく、このような批判は日常的に行なわれなければならない(実際にはあまり聞かれないが)。

米国の場合、GDP速報値は当該四半期が終了した翌月末には発表され、その後追加されたマクロデータをもとに再計算され改定、確報と毎月のように修正されていく。例えば、約19年ぶりの高成長となったQ3のGDPは10月末に発表されたが、その時点では輸出入の基礎となる貿易統計は8月分までしか入手できない。また、発表当事者のBEAは速報から改定される段階で-0.9~+1.2%ポイント修正されること(90%の確率)も明らかにしているが、Q3の7.2%から8.2%の改定もこのレンジに収まっている。

このように、米国の統計では、GDPだけでなく、雇用統計や小売売上高等が日常茶飯事のように修正される。ただ、これで驚いていては米国経済の担当者は務まらない。前述したGDPはさらに年に一回のリバイスが実施される。

過去2年の年次改訂では、2001年の時には、1年近くに渡って続いたマイナスの貯蓄率がプラスに変わってしまった。それまでマイナスの貯蓄率、つまり、可処分所得以上の消費をしている状態を意味したことから、米国は過剰消費の可能性がありその反動が懸念される、あるいは大丈夫であるという議論があった。また、2002年の改訂では、実質GDPならいざ知らず、2001年の名目GDPの1%強に当たる1259億ドルが霧散してしまった。企業収益(税引前調整済)も下方修正されたが、特に2000年は最初に公表されたベースからみると、1581億ドル(当時の換算レートで約17兆円)、率にして16.7%も過大であったことになる。ワールドコムも真っ青の状況であろう。

そして、先週、米商務省がGDPの大幅なリバイスを発表したが、例えば、2000年の成長率が3.8%から3.7%に下方修正される一方、2001年は0.3⇒0.5%へ、2002年は2.4⇒2.2%にそれぞれ修正される等、現時点では大きな波乱はなかったようだ(2000年は2年前に公表された時点では5.0%成長だったが)。ただ、四半期毎の推移をみると、2001年のリセッションの始まりがもっと前、つまり、クリントン政権の時からではないかという見方が浮上している(ブッシュ政権からすれば、景気後退はクリントン前政権の経済運営失敗が原因だという主張につながりやすい)。具体的には、2001年Q1-Q3の3四半期連続のマイナス成長よりも前の段階、2000年Q3が従前の前期比年率0.6%増から同0.5%減になったのである。景気循環の日付を決定するNBERは景気の山を2001年3月、景気の谷を同年11月と判断してきたわけであるが、従来の月次指標に加えてGDPも重視するようになったNBERからすれば、今回のGDP改定は景気の山谷の判定を見直す材料になるかもしれない。

冒頭の記事は、経済統計の速報性と正確性を同時に追求するという難解な問題提起だったが、何もこの問題は経済統計に限ったことではなく、情報一般に当てはまるものである。一昨晩、イラクのフセイン元大統領拘束という“情報”が世界中を駆け巡った。この情報のインパクトは大きいが、実質的にはブッシュ政権にとってマイナス材料がなくなったという程度かもしれない。というのも、フセイン元大統領は米国側が喧嘩を売った相手に過ぎない。同時テロ事件という喧嘩を売られた米国は、2年以上経過した今も依然として事件首謀者の行方を掴んでいないのである。

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近藤 智也

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経済調査部
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