日経平均株価はいつ5万円を超えるか

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2024年06月03日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主席コンサルタント 太田 達之助

2024年は株高で始まった。2月には日経平均株価が34年ぶりに史上最高値を更新し、3月には4万円を突破した。その後やや軟調となったものの、5月末現在、38,000円前後の水準で推移している。

今後の株価の動きがどうなるかは、「神のみぞ知る」領域であるが、本稿ではコーポレート・ファイナンス理論の視点から長期の株価予想を行うこととする。コーポレート・ファイナンス理論では、株主資本コストという概念がきわめて重要だ。株主資本コストとは、企業が株主資本で資金調達を行う場合のコストであるが、それは株式投資家が要求する期待収益率に他ならない。つまり、株価は毎年株主資本コスト分だけ上昇(配当込みで)することが期待されているのである。日経平均株価を構成する会社の平均的な株主資本コストを7%、配当利回りを1.8%と仮定すると、株式投資家の期待する株価上昇率は5.2%となる。日経平均株価38,000円が年率5.2%のペースで上昇を続けると、5年半後の2029年秋に5万円を突破することになる。

実は、過去長期にわたる主要国の株価指数を分析すると、いくつかの例外を除き、年率換算で5~10%上昇している。その事実により、株主資本コストを算出する際のリスクプレミアム(リスク資産の期待収益率から無リスク資産の収益率を引いた差)として、5~6%という水準が一般化されているのである。

株価指数は継続的に上昇するというのが世界の常識であり、1990年から20年余り下落を続けた日経平均株価の動きが数少ない例外だといえる。バブル崩壊後、長期にわたって株価下落が続いた理由は二つある。一つは、バブル期に株価水準が高くなりすぎたことである。当時の平均的なPER水準は60倍を超えており、今の約4倍の水準であった。その状態から適正な水準に向かうまで、長い年月をかけて株価が調整していったと解釈できる。もう一つの理由は、企業の平均的なROEが株主資本コストを下回っていたからだ。株価下落が始まった1990年から、株価が足元までの継続的な上昇トレンドの起点となった2013年までの間で、日本企業の平均ROEが株主資本コストを上回ったのは2005年度からの3年間だけであり、この3年間は株価が上昇した。

異常なレベルの高PER、ROEが株主資本コストを下回るという異常な状態が是正された2013年から、日経平均株価は上昇を続けることになる。日経平均株価は2012年12月に1万円台を回復してから、11年余りで4倍になった(年率約14%の上昇)。この間のPERは13~16倍のレンジで安定し、ROEも2019年度を除き株主資本コストを上回って推移している。

特に2023年には、日経平均株価が28%も上昇するなど日本株が大きく値上がりした。その理由の一つとして考えられるのは、「エージェンシー・コスト」の縮小である。エージェンシー・コストとは、企業経営において株主(依頼人)と経営者(代理人)の間に利害対立が生じ、非効率な経営が行われるためにかかるコストのことである。コーポレート・ファイナンス理論や会社法では、企業経営者は株主価値の最大化のために行動することが想定されているが、日本企業にはそれが当てはまらないことが多い。株主価値向上につながらない多額の現預金や投資有価証券の保有を選好し、本来行うべき成長のための投資や株主への利益配分が不十分である企業などがその典型例である。

その意識を変える契機となったのが、東証が公表した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願い」と経産省が公表した「企業買収における行動指針」である。これら二つの指針が、企業価値向上を意識した経営を促進すると期待されて株価の上昇につながったと考えられる。

日経平均株価のPERが17倍を超えたために、日本株は買われすぎと指摘する声もあるが、長期金利との比較でみると明らかに日本株のPERは低すぎる(※1)。日米の長期金利を比較すると3%以上米国が高い。長期金利と株式益回り(PERの逆数)の差であるイールドスプレッドは、日本が5%に対して米国が1%。潜在成長力に格差があるとはいえ、この差は大きすぎる。日本株のディスカウント要因は、エージェンシー・コストの影響が非常に大きいと考えるのが自然であるが、経営者が株式価値向上を強く意識するようになればエージェンシー・コストは縮小し、PERがさらに上昇する可能性が高い。日経平均株価5万円到達までに5年かからないことも十分に想定される。

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太田 達之助
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