サマリー
◆2025年7月4日、トランプ大統領の目玉政策である減税法案、いわゆる“One Big Beautiful Bill Act”(「1つの大きく美しい法案」、以下、OBBBA)が成立した。OBBBAの成立には時間を要するとの見方もあったものの、4月初旬に予算決議が可決されてから、3カ月程度という短期間での法案成立となった。
◆OBBBAの中身を概観すると、法案全体では10年間で3.4兆ドルのプライマリー・バランスの赤字幅の拡大が想定される。第1次政権時に施行されたトランプ減税1.0の恒久化に加え、新規の減税についても概ねトランプ大統領の選挙公約通りの内容が盛り込まれた。このほか、不法移民政策に関連する歳出増も盛り込まれた。他方で、財政赤字の規模を抑制する観点から、チップ・残業代非課税等の新規の減税については2028年までの時限措置となった。歳出削減についてはメディケイドの削減等が盛り込まれており、とりわけ低所得層向けのセーフティネットが縮小する恐れがある。
◆OBBBAの米国景気に対する影響に関して、Tax Foundationに基づけば、新規での景気の押し上げ効果は既存の関税措置がもたらす悪影響を概ね相殺すると想定される。他方で、財政状況の悪化が見込まれる。トランプ政権が実施している現状の関税措置による税収増を考慮する場合、赤字幅は縮小するとはいえ、CBOの財政見通し(関税、OBBBAを含まず)と比べると、とりわけ当初5年間(2025-2029年)の財政の悪化度合いが大きい。また、世論のトランプ政権の経済・対インフレ政策に関する不満は強く、追加関税措置を長期にわたって継続するかは不透明感が強いことから、想定以上に財政状況が悪化する可能性もある。
◆米国の財政状況を巡っては、大手格付機関による5月の米国債の格下げなどもあり、市場の警戒感は根強い。債務上限問題の解決によって、一時停止されていた新規国債の発行が再開され、供給面から国債需給は緩和しやすくなる。加えて、国債の需要面に関しても、短期的には新たな関税率などによる不確実性が高まる中で、米国債保有額の大きい海外投資家が米国債への投資を手控える可能性がある。米国債を巡っては、需要(海外からの投資)と供給(米国債の発行)の双方から需給が緩みやすく、米10年債利回りは上昇し得る。金融環境が悪化すれば、住宅投資や設備投資といった金利に敏感な需要が抑制されるクラウディング・アウトをもたらし得る点は注意が必要だろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
トランプ2.0で加速する人手不足を克服できるか
~投資増による生産性向上への期待と課題~『大和総研調査季報』2025年秋季号(Vol.60)掲載
2025年10月24日
-
米国経済見通し 過去とは異なる政府閉鎖
政府閉鎖による悪影響は従来よりも長期化する恐れ
2025年10月21日
-
米国、設備投資費用の即時償却を復活・拡張
製造業・情報産業の新規投資、及び対米直接投資の増加要因か
2025年10月07日
最新のレポート・コラム
-
2025年9月全国消費者物価
政策要因でコアCPI上昇率拡大も物価の上昇基調には弱さが見られる
2025年10月24日
-
中国:新5カ年計画の鍵は強国と自立自強
基本方針は現5カ年計画を踏襲、構造問題の改革意欲は低下?
2025年10月24日
-
公共施設マネジメントと公会計
〜機能する行政評価〜『大和総研調査季報』2025年秋季号(Vol.60)掲載
2025年10月24日
-
トランプ2.0で加速する人手不足を克服できるか
~投資増による生産性向上への期待と課題~『大和総研調査季報』2025年秋季号(Vol.60)掲載
2025年10月24日
-
純債務って何?高市総理が目指す財政指標の意味
2025年10月24日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日

