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キャッシュレス社会の実現に向けた課題

2018年09月10日

ニューヨークリサーチセンター 研究員(NY駐在) 矢作 大祐

日本において、リテール分野を中心にキャッシュレス社会に向けた取組みが進んでいる。従来はクレジットカードや交通系・流通系のICカードがキャッシュレスの主な決済手段であったが、近年はスマートフォンのアプリケーションを用いたモバイル決済が増えつつある。例えば、LINE Payや楽天ペイなどのQRコード・バーコード読込式が挙げられる。決済業者は利用者が増加しているスマートフォンを活用し、消費者の利便性を高める一方、企業の現金管理に伴うコストを抑制することで、消費者、企業の両方にメリットのある決済サービスを提供しようと試みている。

日本のキャッシュレス化の行く末を考える上で、キャッシュレス大国である中国の事例は示唆が多い。中国支払清算協会によると、中国では一週間に一度以上モバイル決済を使う人の割合が2016年の60%から、2017年には98%まで上昇した。中国でモバイル決済が急速に普及した背景には、偽札の多さや最大紙幣の額面の小ささといった現金の利便性が低いことや、デジタル・デバイスが発達したことが要因である。ただし、モバイル決済が利用可能な店舗がなければ、消費者が利用したくとも利用できない。モバイル決済は銀聯といったデビットカードに比べて決済手数料が安価で店舗側も導入しやすいことから、モバイル決済が利用可能な店舗が急速に拡大したと考えられる。

では、中国の決済業者はどのようにして安価な決済サービスの提供を可能にしたのだろうか。中国のモバイル決済はテクノロジーが活用されて決済手数料が安価になったわけではない。決済業者がモバイル決済ビジネスと他のビジネスを組み合わせ、トータルサービスで収益化するようなビジネスモデルを構築したことが決済手数料を抑えることを可能にした。例えば、(1)他の金融サービスで収益化するアリペイ型、(2)広告プラットフォームを提供し、広告料で収益化するWeChat Pay型が代表例である。

日本のモバイル決済ビジネスを見ると、現状においてはモバイル決済で店舗が負担する手数料率が、クレジットカードといったキャッシュレスの決済手段に比べて大幅に安価というわけではない。しかし、日本でもトータルサービスで収益化を目指すアリペイ型やWeChat Pay型のビジネスモデルが登場しており、将来的には安価なモバイル決済サービスが提供される可能性もある。

ただし、日本においてアリペイ型やWeChat Pay型のビジネスモデルを導入しても、どの程度利用が拡大するかは不透明と言える。それは日本と中国では規制の環境が異なることが背景にはある。中国においてはサービス等の普及が進んだ後に、規制が導入されるケースが多い。足元、中国ではモバイル決済に関連した規制強化が進展しており、決済業者のビジネスモデルの持続性に懸念が生じ始めている。言い換えれば、従来の中国のモバイル決済ビジネスは、規制の隙間があったからこそ成立した可能性があるだろう。

他方で、日本においては、隙間を生まないような規制網が整備されてきた。もし、日本において隙間を縫ってサービスを提供しようとしても、規制強化の影響を受けやすいビジネスモデルと言える。また、規制に則したサービスを提供することは、利用者が安心して利用できるサービスを提供するという意味で持続性があるとも考えられる。

中国の事例からの示唆は、アリペイ型やWeChat Pay型を模倣すればよい、ということではない。モバイル決済にせよ、他のキャッシュレスの決済手段にせよ、消費者、店舗、決済業者がトリプルウィンとなるようなビジネスモデルを構築できるか否かがキャッシュレス社会を進める上での課題となろう。

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矢作 大祐

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