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誰が、米国の債券を売りたい誘惑に駆られるか

2018年08月22日

ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 近藤 智也

世界同時不況を引き起こしたリーマン・ショックが、2008年9月に米国で起きてからちょうど10年が経過した。ショックの震源地だった米国がいち早く危機前の経済水準を回復したのに対して、日本やユーロ圏はより多くの時間を要した。

一方、2009年6月から始まった米国の景気拡大は9年を越え、このまま回復が続けば2019年半ばには、90年代に記録した景気拡大(120ヶ月間)に並び、1850年代以降で過去最長となる。同様に、日本の景気拡大も、2018年末にはリーマン・ショック前に並ぶ戦後最長となる見通しだ。

ただ、日米ともに景気拡大の長さだけでなく、景気の中身の成熟化が進展していることから、次の焦点として、いつまで景気拡大が続くかに関心が集まるようになったとしても、何ら不思議ではないだろう。

ここでは、過去のバブル期には見られなかった点を指摘したい(※1)。それは、社債や国債の引き受け手としての重みが増す海外勢の動きであり、その動向次第では、米国市場は翻弄されるリスクを抱えているといえよう。

具体的に米国の金融資産を見ると、株式の海外保有比率は80年代以降高まってきたものの、ここ5年ほどは概ね横ばいで推移している。これに対して、社債の保有比率は足下で加速し、約3割に達する。また、国債の場合、家計や投資信託、中央銀行の保有比率が高まり、海外のシェアはこの1年半で低下しているが、依然として4割近くある。しかも、減税や歳出増を背景に国債発行額が今後増えることが見込まれており、需給が緩んで、金利が上振れする可能性もあろう。

今から約21年前(1997年6月)、当時の橋本首相の「米国債売りたい誘惑」発言を受けて、米国の金融市場は一瞬だが、動揺した。当時の米国債の海外保有比率は約26%(約1.1兆ドル)、そのうち日本の保有額は約3,000億ドルと海外勢の四分の一を占めていた(ちなみに中国は約400億ドル、約3.5%)(※2)。直近(2018年3月)では、海外勢の米国債の保有額は約6.3兆ドルで、うち中国が約1.2兆ドルと約2割を占めており(日本は約1兆ドル)、その存在感は20年間で大幅に増している。

ちょうど今、米中両国は約3ヶ月ぶりに貿易協議の場に着こうとしている。お互いの貿易額が大きく異なる状況下では(※3)、単純な追加関税措置の応酬では、トランプ米大統領の切れるカードが多く、中国の分が悪いのは自明であろう。

米国の金融市場が混乱して米金利が上昇すれば、債券価格下落の損失を被るほか、為替市場がドル安(人民元高)に振れる恐れがあり、当然ながら中国自身も悪影響は避けられない。だが、諸刃の剣と認識しながらも、チキンレースの中で手詰まりとなった場合、中国が、駆け引き材料の一つとして、米国の債券を売りたいという誘惑に駆られたとしても驚きはないだろう。

(※2)U.S. Treasury、Board of Governors of the Federal Reserve Systemのデータによる。
(※3)U.S. Census Bureau、U.S. Bureau of Economic Analysisのデータによると、米国の中国向け輸出が約1,300億ドルであるのに対して、米国の中国からの輸入は5,000億ドルを上回る(2017年時点)。

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近藤 智也

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ロンドンリサーチセンター
シニアエコノミスト(LDN駐在) 近藤 智也