新しい次元へ移行する健康志向

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2018年07月03日

2018年6月29日、参議院で働き方改革関連法案が可決された。同時に、TPP11関連法案も可決され、アベノミクスの成長戦略を支える2つの柱がいよいよ前進する。働き方改革の内容は、アベノミクスの当初から成長戦略の中に含まれていたが、途中、資料や数字の不備などで審議が中断したこともあって、2015年の労働基準法改正案の提出から数えると、実に成立まで3年もの時間を要した難産法案であった。

今回の法案成立によって、「労働時間の罰則付き上限規制」「年次有給休暇の取得義務化」「勤務間インターバル制度」「同一労働同一賃金」「高度プロフェッショナル制度」などの実施や普及が促されることになる。これらが経済・社会に与える影響は様々であるが、余暇時間の拡大が期待される中、人口減少下で求められる雇用の多様化や生産性向上への動き、人工知能(AI)など新しい技術への対応、人生100年時代を見据えた就業の長期化や雇用の流動化に備えるには、人々が進化し続けながら長く働くための仕組みが必要となる。それにはよく言われているように、生涯を通じた教育が重要なのは言うまでもないが、ここではもう一つ、健康に対する人々の意識が高まることも予想される。

実際、2016年9月に政府の働き方改革実現会議で本格的な議論が行われ始めた頃より、健康意識の高まりを反映してだろうか、例えば、フィットネスクラブの会員数が急増している。もちろん、フィットネスクラブは健康志向の高まる中高年齢層の利用者が多いこと(※1)に加えて、経済環境の改善も影響しているだろう。しかし、長く働くことに加えて生産性も同時に高めるには、急速に変化する厳しい環境下でも生涯を通じて自己の能力を高める前提として、健康的な肉体・精神が求められていると人々は感じ始めているのではないだろうか。さらに、健康には運動だけでなく、日々の食事の面でも気を使う必要がある。どのような食事が健康に良いのかについて書かれた本や情報は玉石混交であるが、最近では学術的な研究に基づいた望ましい食事について書かれた本がベストセラーとなっている(※2)。

今回の法案に含まれる同一労働同一賃金がどこまで実現するのかは未知数だが、少なくとも、生産性と大幅に乖離した賃金カーブはその乖離が縮小する方向に向かうだろう。そうすると、生産性と賃金の乖離を定年時に清算する定年退職制度も合理性を失っていくため、(就業期間は長くなるものの)同じ企業に働き続けるインセンティブは減り、労働市場を通じて、自分の人的資本を高めながらより高い賃金・就業機会を求めるように、人々の意識が徐々に変わるものと思われる。そうした意識を支えるべく、今までとは次元の違った健康志向の高まりが今後は予想される。

(※2)例えば、津川友介[2018]『シンプルで科学的に証明された究極の食事』東洋経済新報社.

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄