雇用が増えていることの意味
2018年03月09日
2002年1月を谷として08年2月にピークをつけた戦後最長のいざなみ景気(拡張期間73か月)と、12年11月を谷として現在も続いているとみられる今回の景気拡大(18年3月時点で拡張期間64か月)を比較すると、その様相にはかなりの違いがある。
例えば、景気の谷とピーク(今回の景気拡大は直近)の二時点で比較した就業者数の伸び率(年率)は、いざなみ景気のときは0.1%だったが、今回は0.9%である。いざなみ景気のときには雇用が拡大せず、実感なき景気回復と言われたことが思い出される。ただ、今回のように雇用が拡大したらしたで、今度は賃金が上昇していないから景気回復の実感がないと言われている。
実感が薄いのは、雇用が拡大したのに消費が伸びていないからかもしれない。いざなみ景気のときには、家計消費支出は実質で年率1.0%伸びた。つまり、ざっくり言えば消費の雇用に対する弾力性は10(=1.0%÷0.1%)だった。今回の景気拡大での実質家計消費の伸び率は年率0.5%程度で就業者の伸びより小さいから、消費の雇用に対する弾力性は1未満である。ただ、これは単なる計算にすぎず、逆から言えば消費需要の伸びの割に雇用ばかりが増えているとも言える。
1990年代半ばから生産年齢人口が減り続ける中、就業者が増えていることをどう考えればよいだろうか。いざなみ景気のときの03~07年(5年間)には、雇用者が206万人増えたが、自営業主等が114万人減少した。これに対し、今回の景気拡大(13~17年の5年間)では自営業主等の減少が61万人にとどまり、雇用者が306万人増えた。そして、03~07年では増えた雇用者206万人のうちの68%(141万人)が、13~17年では増えた雇用者306万人のうちの75%(230万人)が女性である。
年齢に着目すると、03~07年では正規雇用と非正規雇用が、それぞれ30歳代以下で97万人減、89万人増、40~50歳代で26万人増、105万人増、60歳代以上で30万人増、94万人増だった。これに対し、13~17年における正規雇用と非正規雇用は、それぞれ30歳代以下で87万人減、16万人減、40~50歳代で153万人増、93万人増、60歳代以上で10万人増、141万人増となっている。つまり、直近では若年層の非正規化は沈静化し、壮年層での正規雇用と高年齢層での非正規雇用が大きく増えている。
賃金が伸びていないことや求人に業種間で偏りがあることは事実だが、全体として雇用が拡大していることは正当に評価されるべきだろう。ようやく、これまで活躍の機会が必ずしも十分でなかった女性や高年齢者が希望に応じて働くことのできる社会に向かっている。ますます多様化する個々人の働き方に対応できる労働法制の再構築や雇用慣行の見直し、働き方に中立的な税制や社会保障制度の整備を、本気で急ぐ必要がある。
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