日本の新築住宅は、貸家がいっぱい

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2017年11月30日

2012年12月にスタートしたアベノミクスは5年が経ち、高度成長期のいざなぎ景気を上回る戦後2番目の長さの景気拡大になろうとしている。ただ、この間の実質経済成長率は、年率+1.4%にすぎず、アベノミクスが目標に掲げる2%に届かない。過去の景気拡大と比較しても、個人消費の伸びが緩慢であることが低成長に大きく響いているが、住宅投資に限ると、過去の平均を上回っている。


一方で、金融機関の、個人による貸家業向けの貸出(アパートローン等)の増加に対して日銀や金融庁が懸念を示すなど、貸家バブルが問題視されてから、それなりに時間が経過したが、足下の住宅市場はどうなっているだろうか(※1)


確かに、個人による貸家業向けの設備資金新規貸出(国内銀行)は、2017年に入ってから前年割れに転じ、日銀や金融庁による監視強化が盛んに言われるようになったことが影響しているとみられる。ただ、新規貸出の規模は減ったとはいえ、高水準を維持しており、日銀によると、貸出残高(国内銀行)は2017年9月末時点で23兆円に達し、その増加ペースが減速する兆しは見られない。貸家業を除く法人向けの貸出残高が、今年に入って横ばいになっている点とは対照的である。


また、2017年の新設住宅着工戸数は、足下まで年率で約98万戸(出所:国土交通省)と前年と変わらぬペースで推移している。中身を見ても、持家が前年割れとなる一方で、2016年に10%以上増加した貸家の建設は、首都圏などの三大都市圏を中心に緩やかに増えている。


当然ながら、貸家市場の供給過剰感の高まりから家賃相場が崩れてしまい、目算が狂った貸家のオーナーから、話が違うと訴訟沙汰になるケースも散見される。それにもかかわらず、貸家住宅の建設は大きく崩れていないのはなぜか。一つには、人口は既に減少しているものの、世帯数は2019年にピークを迎え、その後も2020年代は単独世帯が増え続けるといった需要サイドの要因は否定できない。また、持家にこだわらない志向が強まってきたことも影響していよう。特に、40~50歳代の持ち家率は過去20年間で10%pt近く低下している(※2)


だが、息の長い貸家バブルの背後には、やはり供給側の事情・論理が強いように思われる。第一に、2015年の相続税法改正を受けて課税対象者が大幅に増加し、現金や更地で相続するよりも、アパートでも建てた方が納税額を抑えられるという節税インセンティブが生じたことが挙げられる。つまり、借り手が見つからず多少家賃収入が少なくなっても、税金を多く取られるよりはましという意識があれば、収益を見込んで投資するという原則からかけ離れ、健全な住宅市場にはつながらないだろう。


さらに、昨今の低金利によって、借りる側は低コストで建設資金を調達することができ、加えて、貸す側も非常に積極的という相乗効果が働いた。前述したように、金融当局は監視を強めつつあるものの、明確なバブル潰しには至っていないのが現実だ。


本来、投資の過熱を抑えるには金利を引き上げればよい。だが、インフレ率2%を目指す日銀が、現行の低金利政策を大きく変更することは困難であろう。また、国債の利払い負担の急増は、政府にとっても困る。それに、現行の税制を踏まえれば、貸家建設は富裕層の有力な選択肢になろう。従って、現状の貸家バブルは、利害関係者のニーズがマッチした居心地のよい状態であり、意外に長続きするかもしれない。


(※1)日本の住宅市場に関しては、拙稿 「全国で問題視される『空き家』の存在 ~貸家バブルを中心に考える~」 『大和総研調査季報』 2016年秋季号(Vol.24)掲載 をご参照ください。
(※2)総務省「住宅・土地統計調査」

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近藤 智也
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政策調査部

政策調査部長 近藤 智也