日銀の国債買入れ減額が長期金利に影響を与える2つの経路とその示唆
2024年09月11日
日本銀行(以下、日銀)は2024年7月末の金融政策決定会合において長期国債買入れの減額計画を示した。日銀が保有する国債の残高は今後減少していく見込みだ。
日銀保有国債の減少が長期金利に与える経路は主に2つある。第一の経路は、日銀が保有する国債残高が減少することで、国債市場での需給に直接的に緩和圧力がかかるというものだ(直接効果)。筆者らの試算では、日銀の国債保有割合(発行残高に占める日銀の保有割合)が1%pt低下すると、長期金利は0.03%pt程度上昇する(※1)。この試算結果と先行きの日銀保有国債の減少ペースを併せて考えると、「直接効果」による長期金利の上昇圧力は、2025年度末時点で0.2%pt程度、2030年度末で0.7%pt程度、2040年度末で1.1%pt程度とみられる(※2)。「直接効果」による長期金利の上昇ペースは非常に緩やかであり、実体経済への影響はさほど大きくはないだろう。
より大きな影響を与えるのはもう一つの経路だ。日銀が保有残高を減らす分、その他の主体が保有額を増加させる必要がある。こうした国債保有構成の変化によって長期金利が上昇し得る(間接効果)。
「間接効果」を考える上でとりわけ重要なのが、海外投資家の保有割合だ。一般的に、海外投資家は国内投資家よりも高いリスクプレミアムを求める傾向が強いため、海外保有比率が高まると長期金利が上昇しやすいからだ。
「間接効果」による長期金利の上昇圧力は最大で、2025年度末時点で0.1%pt程度、2030年度末で2.2%pt程度、2040年度末で4.2%pt程度とみられる。当面の間は、銀行等の国内主体に国債保有を増加させる余地があるため、海外保有比率の上昇は抑制される。だが、中長期的には国債発行が増加する中、国内主体による国債への需要は伸び悩む見込みであり、海外保有比率の上昇は避けられない。「間接効果」を通じた長期金利の大幅な上昇は、設備投資や個人消費を減少させることで、実体経済に悪影響を及ぼすだろう。
とりわけ2013年の量的・質的金融緩和導入以降は、日銀が長期国債を大量に購入したため、政府が国債を発行しても国債市場で需給の緩和は生じにくかった。だが日銀が本格的に量的引き締めに向かうことで、こうした構造はいずれ終わりを迎える。日銀が金融政策の正常化を進める中でリスクプレミアムの拡大による長期金利の上昇を抑制するには、政府は財政健全化を着実に進め、国債発行の増加を抑制することが重要である。
(※1)久後翔太郎・中村華奈子(2024)「『国債買入減額+利上げ』だけで長期金利は2%超えか」、大和総研レポート、2024年6月12日
(※2)久後翔太郎・吉田亮平・山口茜・中村華奈子・石川清香(2024)「国債需給に見る2040年までの金利上昇リスクと経済への影響」、大和総研レポート、2024年8月28日
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- 執筆者紹介
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経済調査部
シニアエコノミスト 久後 翔太郎
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