2017年はトランプに一喜一憂する一年に

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2016年12月29日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸

2016年12月23日、われわれは、日本経済新聞出版社から『日経プレミアシリーズ:トランプ政権で日本経済はこうなる』(熊谷亮丸+大和総研編著)という単行本を上梓した。

現在、金融市場関係者は、「トランプの経済政策は『レーガノミクス』の再来である」として大きな期待を寄せている。

レーガノミクスとは、1981年~1989年に米国大統領を務めた、ロナルド・レーガンの一連の経済政策を指す。その骨子は、①大型減税、②規制緩和の推進、③軍事費の拡大(他の歳出は削減)、④マネーサプライの抑制によるインフレ圧力の管理、の4点であった。

ここで、レーガノミクスには「光と陰」があることを、皆様には是非とも理解しておいて頂きたい。

レーガノミクスの成果としては、第一に、米国がインフレなき景気拡大を続けた点が指摘できる。

ただし、米国経済が拡大した背景は、当初、レーガノミクスが期待していたものとは大きく異なっていた点に注意が必要である。

そもそも、経済には、「サプライサイド(供給サイド)」と「ディマンドサイド(需要サイド)」が存在する。「サプライサイド(供給サイド)」とは、文字通り、経済の供給側——具体的には、企業の生産活動などを指す。これに対して、「ディマンドサイド(需要サイド)」とは、例えば、個人消費を中心とする「お金を使う」活動である。

レーガノミクスは「サプライサイド政策」と称されるように、経済のサプライサイド——すなわち、企業が商品などを供給する能力の強化に主眼を置いていた。規制緩和や法人税減税などを通じて、企業の労働生産性が向上することが期待されたのである。

ただし、確かにレーガノミクスによって米国経済は活況を呈したものの、その理由は、事前の想定とは大きく異なっていた。レーガノミクスによって期待されたのは、企業の設備投資の活発化に伴う、経済の「サプライサイド(供給サイド)」主導の景気拡大であった。しかし、現実に米国で起きたのは、所得税減税などを背景に、個人消費が過剰とも言える水準にまで過熱したことによる——言葉をかえれば、「ディマンドサイド(需要サイド)」主導の景気拡大だったのである。

第二に、レーガノミクスが軍事費の増加を通じて、ソ連を崩壊に追いこんだことも評価して良いだろう。この結果、世界には「平和の配当」がもたらされた。

他方で、レーガノミクスには、大きな「陰」があった。

第一に、米国は「双子の赤字(=財政赤字と経常赤字)」に悩まされることになる。減税や軍事費拡大により財政収支が大幅に悪化したことに加えて、消費者が過剰消費を続けたからである。

第二に、レーガン政権下では、所得格差が拡大した。

富裕層に対する減税が行われる一方で、多くの社会プログラムが切り捨てられたため、貧困層の生活は遅々として改善しなかった。いわば、現在まで続く「格差問題」の出発点となったのが、レーガノミクスなのである。

こうしたレーガノミクスの「光と陰」を踏まえた上で、われわれはトランプ政権の評価を冷静に行う必要があるだろう。

何れにしても、2017年はトランプに一喜一憂する一年になりそうだ。

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熊谷 亮丸
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