タックスヘイブンへの資金フローは変わるか

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2016年08月08日

BEPSプロジェクトが実施段階に移ることを受けた拡大BEPS会合が、G20/OECDによって6月30日に京都で開催された。BEPSとはBase Erosion and Profit Shiftingのことで、「税源浸食と利益移転」と翻訳されている。多国籍企業が租税回避をするために、国際的な税制の抜け穴を利用して課税所得を人為的に操作していることへの対策が検討されている。

BEPSプロジェクトでは、多国籍企業は払うべきところで税金を払うべきなどの考え方に基づき、「15の行動計画」が策定された。現状、OECD加盟国、中国、タックスヘイブンの一部の国・地域など85か国・地域が参加している。拡大BEPS会合では、税の透明性に関して非協力的な地域を特定するための客観的な基準の作成についても議論が行われた。その後のG20財務大臣・中央銀行総裁会議で、2017年7月のG20サミットまでにOECDが当該リストを作成することになり、該当した場合、何らかの制裁措置が検討されるという。

一方で、個人を対象としたCRS(共通報告基準、Common Reporting Standard)という取組みもOECDでは進められている。これは政府間で非居住者の銀行口座情報(納税者番号、預貯金・有価証券残高など)を交換するための基準であり、今まで捕捉が難しかった国際的な資金の流れを解明することに役立つ。CRSには101か国が参加しており、日本をはじめとして、ケイマン諸島などのタックスヘイブンも含まれている。法人・個人による租税回避への対処によって、公平・公正な課税が行われるようになることが期待されている。

ところで、前回のコラム(※1)では、近年、タックスヘイブンには多くの資金が集まっていることを述べた。例えば、IMFによると、ケイマン諸島に対する証券投資残高(ケイマン諸島に所在する企業の資金調達残高)は2015年第2四半期末で2.6兆ドル(株式1.9兆ドル、債券0.6兆ドル)である。米国からは1.2兆ドルが、日本からは0.6兆ドルが投資されている。

問題はその資金が実質的にはどこに向かっているかだが、ケイマン諸島に所在する企業の国籍別最終親会社の株式・債券資金調達額(2010~2016年上半期の合計)を見ると、株式は米国籍が2,190億ドル、ケイマン諸島籍が436億ドル、債券はブラジル籍が487億ドル、ケイマン諸島籍が221億ドル、中国籍が163億ドルとなっている(出所はトムソン・ロイター)。また、ケイマン諸島の対外証券投資残高(資金の流出)は610億ドルで、内訳は米国向けが268億ドル、ブラジル向けが243億ドルなどとなっている(出所はIMF)。

証券の形態でケイマン諸島に流入した金額と流出した金額の差分は、ケイマン諸島からの対外直接投資や金融機関を経由した融資などに相当すると推測される。このように資金がタックスヘイブンを経由して向かう先を把握することはかなり難しい。今後BEPSやCRSなどによって、資金フローがどの程度解明され、どのように変わっていくのか、注目していきたい。

(※1)2016年5月10日大和総研コラム「オフショアを巡るマネーフローとパナマ文書」

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神尾 篤史
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 神尾 篤史