"変なホテル"から見える青い海

-ロボットが奪う仕事と生み出す市場-

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2016年03月15日

  • マネジメントコンサルティング部 主席コンサルタント 弘中 秀之

昨秋、長崎ハウステンボスにある「変なホテル」に宿泊した。その際、恐竜や女性姿の受付ロボットから丁寧なおもてなしを受け、そのインパクトと完成度の高さには驚かされた。またそれ以上に、今後の労働者不足への対応や、高い生産性実現といった日本が抱える課題を解決する手段として大きな可能性を感じるとともに、昨今話題となっている、ロボットや人工知能に置き換わる仕事をリアルに感じる体験でもあった。

長崎ハウステンボスにある「変なホテル」

ロボットや人工知能によるイノベーションは、政府の成長戦略における柱のひとつになっており、ロボットの市場規模を2020年までに製造分野で2倍(6,000億円から1.2兆円)、サービスなど非製造分野で20倍(600億円から1.2兆円)にするというロボット新戦略(※1)が昨年打ち出されている。このような成長が見込まれるロボット市場、特に非製造分野の市場は、お掃除ロボット等一部を除き、今は市場が存在しない、もしくは確立していないブルーオーシャンといえるだろう。

現在、多くの会社は、既存の事業領域の中で他社との熾烈な競争にさらされている。このため、厳しい競争市場であるレッドオーシャンから逃れ、競争のないブルーオーシャンを切り拓いていこうと考えていることであろう。このことは、大和総研が先日(2016年3月7日)公表した「トップマネジメント意識調査」(※2)において、自社の抱える経営課題として、「新製品開発・新規事業」が他を大きく引き離して一位であった結果からも裏付けられる。

ロボット関連技術やその頭脳となる人工知能の性能も高まり、さまざまな形や用途のロボットが開発されるようになってきた。このような環境の中で、ブルーオーシャンを手に入れたい会社においては、ロボットを新規事業の有力候補と捉えている経営者も多いのではないか。

しかし、実際にロボットや人工知能を使いブルーオーシャンに向かって本格的に漕ぎ出した会社はそれほど多くない印象を持つ。

非製造分野におけるロボット市場では、自動運転やパワーアシストスーツなど市場が新たに見えてきた一部の分野では既に激しい競争が始まっている。しかし、人型ロボットをはじめ、各種ロボットを構成する要素技術等、現在研究開発されている多くの技術は、それらがどのようなイノベーションにつながるか、どの程度の市場規模になるかなど、その先の確実な市場が見えていないというのが現状認識と思われる。このことが、ロボットや人工知能分野に可能性を感じつつも、進出決断を難しくしている理由の一つになっているものと考える。

だが、だからこそブルーオーシャンとしての魅力があるのである。明確な市場が見えない中、いち早く決断し、投資を始め、試行錯誤を繰り返している会社は、正確な海図なき時代に大海に漕ぎ出しアメリカ大陸へ到達したコロンブスのようなスピリットを持った会社といえよう。

冒頭で紹介したホテル受付のように、ロボットや人工知能に置き換わる仕事として、多くの職種が候補に挙げられているが、見方を変えると、これらの職種は、ロボットや人工知能が活躍できる将来性ある市場と見ることができる。この市場を、単に人の代替としての労働力やコスト削減のみを目的とした市場と見るべきではない。今まで人間の能力ではできなかったことができるようになることで生まれる、まだ見ぬ未来に広がる未知の市場をその先に見据える必要がある。このことは、新規事業の開拓を経営課題と考えている経営者には、ひとつのヒントになるのではないか。

持続的成長と中長期的な企業価値を向上し、ひいては日本の競争力を高めていくためにも、日本企業のトップには、ブルーオーシャンを切り拓く現代のコロンブスとして、リスクを取って大海に漕ぎ出す決断を期待したい。

(※1)「ロボット新戦略」 ロボット革命実現会議
(※2)上場企業の「企業価値創造に関するトップマネジメント意識調査」大和総研

【参考文献】

W・チャン・キム/レネ・モボルニュ [新版]ブルー・オーシャン戦略

著者レポート

ロボット新戦略 ロボットオリンピックで金メダルは取れるのか(前編)-ロボット新戦略の概要とロボット革命の鍵を握るサービスロボット-
ロボット新戦略 ロボットオリンピックで金メダルは取れるのか(後編)-キラーアプリケーションを生み出す仕掛け創りが金メダルへの道-

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弘中 秀之
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マネジメントコンサルティング部

主席コンサルタント 弘中 秀之