非財務情報としての奴隷労働

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2015年12月02日

12月2日は、「奴隷制度廃止国際デー」だ。1949年のこの日に国連総会で「人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約」が採択されたことに由来する。しかし、地球上から奴隷制度は無くなったわけではなく、人身売買、性的虐待、児童労働、強制結婚、児童兵士の徴用などがたびたび問題になる。

現代的な奴隷制度は、途上国や紛争地での話にとどまらず、国際的な大企業の課題でもある。世界にネットワークを広げる企業が、知らずしらずのうちに奴隷労働を利用していることがあり、それが明らかになれば厳しい批判を受け、ボイコットなどにより株価が下落する恐れがある。そのため、投資家からの信頼確保を理由の一つとして、奴隷制度との関わりについて情報開示規定を定める動きがある。英国では、2015年に現代奴隷法(Modern Slavery Act)が成立しており、売上高3,600万ポンド以上の企業に対して、奴隷制度との関係の声明書(statement)を作成すべきことを定め、ガイドラインも提示している(※1)。書式もなければ監査規定もないが、声明書は企業のウェブサイトで公表すべきとされている。

開示情報としては、次のような事項が期待されている。

  • 企業の概要、事業内容、サプライチェーン
  • 奴隷制度や人身売買に関する企業の方針
  • 事業・サプライチェーンにおける奴隷制度・人身売買に関するデューデリジェンス
  • 事業・サプライチェーンにおける奴隷制度・人身売買に関するリスクとそれらの評価手順、管理手法
  • 事業・サプライチェーンにおいて奴隷制度・人身売買を回避することの実効性評価と適切な評価指標
  • 役職員に対する研修

奴隷労働や人身売買に関するこのような開示規定は米国カリフォルニア州でも制定されているという。また、非財務情報開示の国際的基準の一つであるGRI(Global Reporting Initiative)でも、奴隷労働を含む強制労働に関する開示を定めている。

非財務情報といえば、わが国では環境への取り組みであるとか、従業員向け福利厚生、地域社会との交流がイメージされやすい。しかし、海外に目を向けると様々な情報開示規定が設けられているし、今後も設けられようとしている。米国で金融危機後に設けられた紛争鉱物開示規定は、コンゴ民主共和国とその周辺における武装勢力の資金源を断つために、一定の鉱物の取引が紛争を資金面から支えていないかどうかについて、上場企業である製造・販売業者に調査義務を課し、調査結果を開示させる。米国上場企業による開示は既に実施されているし、EUでも紛争鉱物に関する開示規定の検討は大詰めを迎えつつある。米国民主党は、うなぎ上りに増える企業の政治献金に関する情報開示規定を設けるよう、SECへの働きかけを強めている。GRIでも政治献金に関する開示を定めているし、先ごろ改正されたOECDのコーポレート・ガバナンス原則でも言及されている。

2015年11月からはじまった金融庁のディスクロージャーワーキング・グループ(※2)では、「ガバナンスや中長期計画その他の非財務情報の開示について」を検討課題の一つに挙げている。無数にある非財務情報の中から何を要開示として選び取るかは、今後の議論に委ねられるのだろうが、海外事情を見るとわが国の企業には困惑を招くものも多そうだ。

(※1)英国政府“Transparency in Supply Chains etc. A practical guide
(※2)金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」(第1回)議事次第(平成27年11月10日)

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執筆者紹介

政策調査部

主席研究員 鈴木 裕