2015年09月28日
甘利明経済財政政策担当大臣は「ゲスの極み乙女。」のヒットソング「私以外私じゃないの」の替え歌を歌って個人番号カードのPRを行った(※1)。国民1人に一つずつ漏れなくダブりなく付番されるマイナンバー(個人番号)と住所、氏名、性別、生年月日が記載され、顔写真まで掲載される「個人番号カード」は、まさに「私以外私じゃない」ことの証明になる(※2)。
ところで、マイナンバーなど使わなくても、氏名だけで「私以外私じゃない」ことが分かってしまう人が世の中にはたくさんいる。実は、筆者もその1人である。日本に(たぶん世界にも)筆者と同姓同名の人は、おそらくいない。このため、インターネットで筆者の氏名を検索して得られる結果は、(一部に誤報や正確でない情報などもあるが)基本的にはすべて筆者に関する情報だ。筆者の氏名を知って、インターネットで検索を行えば、筆者の職業や学歴、ある程度の思想信条などがすぐに分かる。
このような、同姓同名がいない氏名(以下、ユニークネームと呼ぶ)であることのメリットとデメリットは、近年、インターネットに掲載される情報量が増大することで、少しずつ大きくなっている。
メリットは、バイネーム(自分の名前)での仕事がやりやすくなることである。新聞や雑誌などでユニークネームの名前を知った人は、氏名で検索すればすぐに情報を得ることができ、仕事を発注したりコンタクトを取ったりすることができる。また、自己紹介が「検索してください」だけで済んでしまい、売り込みも容易だ。
デメリットは、プライバシーを守るのが難しくなることである。職業や立場を明かしたくない局面でも、氏名さえ明かせば相手に素性がある程度知られてしまう可能性がある。行きつけの理髪店やスポーツクラブなどで突然仕事の話をされるくらいならまだよいのかもしれないが、私怨を持たれてストーカーなどをされてしまうと大変厄介だ。いわゆる「ネット炎上」に遭うと、すぐに身元が特定され職場や自宅などに猛攻撃を仕掛けられる可能性もある。
氏名は簡単には変えることができないので、ユニークネームを持つ人は、まずはより個人情報に敏感になるべきだろう。SNSで一度書いた文章や一度掲載した写真は、未来永劫消せずに自分の氏名と紐付けられ続ける可能性がある。このため、たとえ友人等に公開範囲を限定したものであっても、それが友人等から全体に公開されたとしても大きな問題にならないものの範囲に収めておくのが安全であろう。
大人であれば、何を書いてよいか、どのような写真なら掲載してよいかの判断が付くかもしれない。だが、その判断が十分にできない状態の子どもがインターネットに接すると、不用意な発信を行ってしまうリスクはより高くなるだろう。その子どもである発信者がユニークネームであれば、不用意な発信を行ってしまった際の被害はとても大きなものとなろう。
検索ですぐ分からないようにするために、自分の子どもに名前を付けるときからユニークネームにならないようにする、というのも現代的な名付けの方法の一つかもしれない(※3)。また、子どもにユニークネームを付ける場合は、インターネットにはじめて接するときから、その使い方や個人情報との付き合い方についてしっかりと教える必要があるだろう。
(※1)2015年5月27日付日本経済新聞朝刊4面等を参照。
(※2)個人番号カードについて詳細は、吉井一洋「なるほどマイナンバー 個人の生活の視点から 第3回~マイナンバーが送られてきた。さて、どうする?」(2015年5月27日)を参照。
(※3)氏名がユニークネームとなるか否かは、姓によって大きく事情が異なる。同姓の人が多い姓の場合は、珍しいと思われる名を付けてもユニークネームとならない可能性が高くなる。他方、珍しい姓の場合は、一般的と思われる名を付けてもユニークネームとなる可能性が高くなる。子どもに名前を付ける前に、その氏名で一度インターネット検索を行ってユニークネームになりそうか否かを調べてみるのもよいかもしれない。
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- 執筆者紹介
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金融調査部
主任研究員 是枝 俊悟
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