財政の試算をよむのは難しい
2015年09月24日
政府は6月に決定した骨太の方針に基づき、財政改革を進めようとしている。これまでも財政再建に熱心に取り組んだ時期はあったが、結果的に政府債務が積み上がり続けている。今回の財政再建の特徴は、経済と財政を一体的に改革しようというもので、成長志向での歳出改革という着想に新しさがある。
誰かの借金は誰かの貯金であり、政府の支出超過(資金不足)は民間の支出低迷(資金余剰)と対をなしている。民間の投資や消費を活発にしていかなければ政府の資金不足が縮小した構図は描けないから、政府の歳出改革を成長戦略として構想するのは理に適っている。民間経済が悪くない状態でなければ、制度的な歳出抑制や負担の引上げもできない。
もちろん、それは経済成長で財政が再建できるという意味ではない。超高齢化を原因に各種制度の持続性が失われつつあることが、現在の財政問題の本質である。政府の支出や収入の今後のパスを修正しなければ、社会保障制度と財政はいずれ破綻する。政府債務残高の対GDP比率の上昇を食い止めるためには、差し当たり基礎的財政収支を均衡させる必要がある。
どのくらいの収支改善が必要かの目安に使われているのが、内閣府が半年ごとに公表している「中長期の経済財政に関する試算」である。直近は7月に発表されたが、2月の前回試算と比べて、経済再生ケースの場合、2020年度の基礎的財政収支の赤字が9.4兆円から6.2兆円に縮小している。保守的なベースラインケースでも赤字が16.4兆円から11.9兆円に縮小している。
今年の経済財政白書は日本経済が四半世紀ぶりの良好さをみせていると述べたが、この試算を見て、経済が良くなれば財政改革なしでも収支が十分に改善すると考えるのは早計である。経済が良くなれば税収は当然増えるが、医療・介護や年金、公務サービスの費用が賃金動向などで決まるため歳出も増えていくからである。実は、内閣府の試算はその点を過小評価しているように見える。
また、2月試算から収支が改善したのは、まだ予算が決まっていない16年度の歳出の仮定を抑制的に変えるなどの想定修正によるところが大きい。分かりやすく言えば、歳出を表す関数について、定数項である切片を前提上変更したということであり、関数の傾きを変えるべきこと—行うべき歳出改革-は変わっていない。7月試算でも基礎的財政収支の赤字が残っていることを軽視したり、前提変更による効果を経済成長による寄与と誤解したりすると政策論議が歪んでしまう。
だいたい前提次第の試算結果が変わったからといって、半年で課題が雲散するはずがない。さらに付言すると、景気が多少足踏みして景気対策的な補正予算への熱望が強まると、試算の姿が実現しないばかりか、結局は「第三の矢」による好循環ではない「第二の矢」依存への回帰ではないか、という話になるだろう。
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常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
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