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アベノミクスに2つの追い風

「原油安」と「春闘における賃上げの加速」

2015年05月01日

調査本部 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸

アベノミクスに2つの追い風が吹いてきた。

第一の追い風は「原油安」である。国際原油市況は2014年夏をピークに急速に下落した。国際的な原油価格の指標となるWTIは2014年6月時点で100ドル/bblを上回って推移していたが、一時40ドル/bbl台まで低下した。驚くべきことに、半年余りの間に半値以下の水準まで下落した計算となる。

最初に原油安が家計部門に与える影響を確認しておきたい。物価面では、原油安の進行を受けて、4月以降、消費者物価上昇率がいったんマイナスに転じる可能性が高い。物価上昇率がマイナスに転落する中、これまで低迷が続いてきた実質賃金(=物価の変動を考慮した実質的な家計の購買力)は急速に改善する公算が大きい。消費税増税による影響がなくなる2015年4-6月期には実質賃金の前年比伸び率はプラスに転じるとみられる。実質賃金の増加は、個人消費を活性化させる大きな原動力となるだろう。

原油安は企業部門にとっても収益改善要因となる。資源の大半を輸入に頼る日本では、原油安がデメリットとなる企業は一部に限られ、多くの企業はプラスの影響を受ける。原油安で変動費率が押し下げられることで多くの企業の損益分岐点が低下し収益性が改善することになる。

大和総研では、原油安が日本経済に与える影響を、マクロ経済モデルを用いて試算した。シミュレーション結果によれば、2014年6月時点で105ドル/bblだった原油価格が下落したことによって、2014~2016年度の実質GDPの水準はそれぞれ2014年度:+0.20%、2015年度:+0.50%、2016年度:+0.41%押し上げられる。

アベノミクスの第二の追い風は「春闘における賃上げの加速」である。4月16日に経団連が発表した一次集計によれば、2015年の春闘における賃上げ率(ベースアップと定期昇給の合計)は2.59%と17年振りの高い伸びであった。ベースアップは概ね0.7%程度とみられている。

わが国では、企業部門の好調が、雇用・所得環境の改善などを通じて、ようやく個人部門に好影響を及ぼしつつある。大局的に見て、日本経済の底流では、アベノミクスが想定する「生産→所得→消費」という好循環が着実に継続しているのである。

そもそも「賃上げ」には一定の「呼び水効果」が期待される。特に、定期給与の増加は耐久財を中心に個人消費を活性化させるため、「合成の誤謬」を回避する目的で、余裕のある企業は極力前倒しでベースアップに取り組むことが望ましい。

大和総研では、所得の増加の仕方の違いが、個人消費に与える影響を推計した。雇用者所得を、定期給与(=所定内給与+所定外給与)、特別給与、雇用者数の3つに分けた上で、それぞれの変化がどの程度個人消費に影響を与えるかを推計すると、定期給与の増加が、最も個人消費を押し上げる計算となる。仮に、定期給与の増加によって雇用者所得全体が2%(=約5兆円)増加した場合、耐久財およびサービス消費の増加を主因に、個人消費は5.3兆円押し上げられる。雇用者数の増加による効果は、1.9兆円と定期給与増加による効果の半分を下回り、特別給与の増加による効果は、0.7兆円とより一層小さなものとなる。

今後の日本経済は、①原油安、②春闘における賃上げの加速、という2つの追い風にも支えられて、緩やかな景気拡大を続けると予想される。安倍政権には、景気拡大に慢心することなく、「第一の矢(金融政策)」に過度な負担が集中している現状を是正し、社会保障制度の抜本的な改革や「第三の矢(成長戦略)」の強化などを柱とする「国民の痛みを伴う構造改革」を断行することを、大いに期待したい。

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熊谷 亮丸

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