消費税増税先送りで見えたもの
2014年12月11日
11月18日、安倍晋三首相は2015年10月に予定されていた消費税率の引上げを18か月延期すると発表した。どういうわけか、日本では依然として消費税だけは国民負担の中で特別なものである。今回の判断も政情と結びついて解散総選挙の契機となったようだが、それ以外にも増税先送りで多くのことが見えてきた。
何より、なぜ増税が必要なのかについて理解が広がっていなかったと思う。社会保障制度の持続性を回復させ、将来の負担で現在の生活水準を維持する状況を改めるのが増税の目的だった。それを民主党政権当時の三党合意どころか、その前の自公政権当時から莫大な政治コストをかけて議論してきた。2013年1月の日銀との共同声明では、政府は持続可能な財政構造を確立していくことを約束していた。消費税増税で家計の実質所得が減るのは当然で、日々赤字で飲み食いしている分を私達は少し我慢することが今回できなかった。
もちろん、経済再生をリードする安倍首相も「消費税の引上げは必要」と明確に述べ、2017年4月には景気判断条項を付すことなく税率を引き上げると表明した。ただ、どのような経済環境であれば増税が許されるのかよく分からないことも明らかになった。9月以降の景気は改善傾向にあり、少なくない論者が予定通りの増税実施を主張した。消費税がデフレ脱却を妨げるという見解は、デフレは単純な貨幣的現象では元来なかったということだ。
税収がなければ、それをあてにした政策は実施できないはずである。高齢者向けにしろ、少子化対策にしろ、消費税率10%引上げ時に予定していた歳出が増税なしに拡大されるとしたら、消費税の社会保障目的税化というコンセプトが大きく損なわれる。これは、消費税に対する信頼や、受益と負担を比較考量するための土台を揺るがす大問題である。
増税先送りの法律案について国会で議論されることになる。この2年間の安倍政権の政策では財政健全化や法人税以外の税制改革、社会保障改革の位置づけが明確だったとは言いにくい。今回の総選挙後の政権が、それらの課題を正面から丸ごと引き受けることになった点も先送りの作用だろう。総選挙で増税先送りに反対する声がないのは候補者や政党にとって合理的な話だが、民主主義の試練に直面していることを感じずにはいられない。
最後に、景気判断条項に基づいて延期の判断がなされた一方、次回はその条項を置かないというのは分かりにくい。1年後の経済予測も難しいのに2年以上先の予測はもっと難しい(足下では、終わった四半期の現状把握すら難しいことが分かった)。大規模な天災や世界同時の深刻な不況があった場合に限り増税を棚上げできる条項を、客観的な数字で示しておいた方が良いだろう。いざとなれば法律を変えてしまうことができるのだから、必要な増税を先送りしないためにこそ具体的な景気判断条項が必要だ。
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