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『バーゼルⅣ』に向けた議論が開始

2012年06月18日

金融調査部 主任研究員 金本 悠希

欧州債務危機問題は、2月のギリシャへの二次支援合意で落ち着くかに思われたが、最近になってギリシャのユーロ離脱懸念やスペインの金融不安の深刻化から、一段と混迷を深めている。このような状況にあって、5月、バーゼル銀行監督委員会は、「バーゼルⅣ」とでも呼ぶべき、バーゼルⅢを抜本的に強化する見直し案を公表した(※1)

見直し案は、リーマン・ショックを発端とする金融危機において、トレーディング業務によって発生するリスク(マーケット・リスク)を適切に把握できなかった反省をふまえ、バーゼルⅢのマーケット・リスク規制を強化するものである。最も注目される修正点(案)は、現行規制上、内部モデル方式においてリスク計測指標として利用されているVaR(バリュー・アット・リスク)を廃止することである。VaRは、一定の確率(99%)を前提とする最大損失額を計測する指標であるため、残りの1%の確率で発生する損失額がいくらになるかについては表現されない。そのため、金融危機のような(いざ実現すれば巨額の損失が発生するが)実際に実現する可能性が低いリスクはVaRでは捕捉されない。そこで、見直し案では、VaRに代わるリスク計測指標として「期待ショートフォール」が提案されている。これは単純化して言えば、損失額がVaRで求められた額を超える場合における、損失額の平均値を求めるものである。

見直し案で他に注目される点は、マーケット・リスク規制の枠組みが適用されるトレーディング勘定の範囲の見直しである。現行規制上、銀行が金融商品に投資している場合、それを銀行勘定に計上するか、トレーディング勘定に計上するかは、銀行の意図によって決定される。しかし、このような扱いでは、必要な自己資本額が小さい方の勘定に計上しようとする裁定行為が生じ得る。そこで、見直し案はこのような扱いを是正する案の一つとして、公正価値評価(時価評価)の対象となる金融商品であれば、原則としてトレーディング勘定に計上するという案を提案している。この案が適用されると、我が国の現行規制上、銀行勘定に計上されている「その他有価証券」もトレーディング勘定に計上され、マーケット・リスク規制の枠組みで必要自己資本額を計測することとなる。

今回の見直し案の背景には、金融危機の際、トレーディング業務によって多くの銀行が巨額の損失を被り、公的資金を注入せざるを得ず、その結果財政赤字が拡大したことがある。このような事態が再び起こらないようにするため、米国のボルカー・ルールにも見られるように、銀行のトレーディング業務の規制強化は世界的な流れであり、避けられないだろう。

しかし、今回の見直し案は、銀行のトレーディング業務の規制を強化することによって、金融市場の流動性を低下させ、金融市場の低迷を招く恐れがある。また、今回の見直し案により、トレーディング業務を活発に行っている金融機関については、自己資本比率の分母が大きく増加し巨額の自己資本を積むことが求められる可能性があるが、それが困難な金融機関もあるだろう。重要なことは、損失が発生してもそれが自己資本の範囲に収まるように、適切な規模にトレーディング業務を管理することである。

(※1)見直し案の内容については、拙稿「バーゼル委、トレーディング規制の抜本的改革案を公表」(6月7日付レポート)参照。

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金融調査部
主任研究員 金本 悠希