日本の経常収支は赤字化するのか?
2010年09月27日
わりと近い将来に日本の経常収支が赤字化するという議論がある一方、足下で円高が大問題になっている。名目の円ドル為替レートだけをみていても貿易収支や経常収支の先行きは予想できないが、もし、日本が基調として経常赤字の経済に構造変化すると市場が予想しているなら、円安見通しがもう少し勢いを増してもよさそうなものである。
経常収支は、財やサービスの貿易収支と、対外的な債権債務関係から生じる所得収支の二つの要因で決まる。まず、貿易黒字の源泉である自動車や一部の産業用機械など日本製品の優位性が数年で失われるとは考えにくい。他方、貿易収支が赤字になるほどの消費ブーム(輸入の大幅増)が発生するとも見込みにくい。むしろ、訪日外国人の増加などで、サービス収支の赤字が縮小に向かっている。
また、日本は世界最大の対外純債権国であり、所得収支の黒字が当面拡大していく。日本の対外資産ポートフォリオは保守的・低リターンで、もし今後、低水準で推移してきた対外直接投資を増やしていければ、所得収支の黒字はさらに拡大するだろう。これは「成熟した債権国」の路線だ。
輸出入側からではなく、貯蓄投資バランスからのアプローチで間もなく赤字化するという論調も多い。日本は超高齢化で貯蓄を取り崩す家計が増え、家計貯蓄率が低下していくから、経常収支が赤字化するというわけである。しかし、マクロの貯蓄投資バランスを考えるなら、家計と企業と政府を合わせた国民貯蓄率が重要である。近年の家計の貯蓄率低下は企業の貯蓄率上昇と同時発生しており、民間全体の貯蓄率はさほど低下していない。
こう考えてくると、今後10年以内に日本の経常収支が赤字化する予測を作成するのは簡単でない。ただし、財政悪化の分だけ国民貯蓄率が低下している現状は問題視すべきである。また、近年の大幅な経常収支黒字と財政収支赤字は、日本経済の長期低迷を端的に映した結果である。家計や企業の支出が増加せず、国内経済が活性化しないために、経常収支黒字が減らないことこそが問題である。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

- 執筆者紹介
-
調査本部
常務取締役 調査本部長 鈴木 準
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
中国:26年1Qは予想外の堅調で5%成長
ただし、中東情勢緊迫長期化なら政府目標4.5%~5%成長は困難に
2026年04月17日
-
原油高の国内への波及経路と価格転嫁率を踏まえた消費者物価への影響
原油・天然ガス・石炭価格の10%上昇は物価を最大約0.3%押し上げ
2026年04月17日
-
令和8年金商法等改正法案 有価証券に関する不公正取引規制等の見直し
市場制度ワーキング・グループの提言がそのまま反映される
2026年04月17日
-
熊谷亮丸の経済・金融 Foresight 何故、円安・ドル高が止まらないのか?
中東情勢の混乱が続く中、円安と物価高・実質賃金低下の悪循環が継続するリスク
2026年04月16日
-
ホルムズ海峡封鎖で変わる世界地図—改めて問われる「成長投資」とは?
2026年04月17日

