サービス産業はどのようにして生まれるのか

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2010年03月04日

日本のものづくりが正念場を迎えている。国内賃金が相対的に高ければ、汎用品などの付加価値の低い製品の生産は、採算の合う相対賃金の安い中国やベトナムなどへシフトせざるを得なくなるため、結果的に国内雇用の減少を招きやすい。一方、サービス産業では国際的な相対賃金の影響を受けにくいため、賃金が高くても雇用が促進されやすい。よって、サービス産業の育成が雇用・成長戦略に繋がるものと考えられる。

では、サービス産業はどのようにして生み出されるのか。ここでは家計の行動を考えよう。家計は通常、消費主体とみなされるが、実は様々な家計向けサービスを自ら生産する主体として捉えることも可能である。例えば、炊事や洗濯といった作業は立派な家事サービスの生産であるし、子供を育てることも保育サービス生産の一つである。自動車を保有することは自ら輸送サービスを生産しているのに等しいし、家を所有することは住居サービスの自家生産である。これらの生産活動は、家計が様々なモノを購入し、必要に応じて自らの労働力を組み合わせることによって行われている。

ポイントは、これら家計内部で行われる生産活動が市場を通じたものとはなっていない点である。新たな産業を生み出す一つの方法として、こうした内部化されたサービス生産を外部化すること、つまりサービス産業として市場へ取り込むことが考えられる。

では、サービスの生産を内部化するか、それとも外部化するかの選択は何に依存するのか。サービスの生産は、それに必要な設備や道具に加えて労働投入も必要である。それらモノやヒトの投入から得られるメリットとデメリットを考えると分かりやすい。モノを所有するとそこから継続的なサービスが得られるが、一方でモノを購入するコスト(購入費用や保管場所の確保、維持費等)も発生する。また、家計内部での労働力の投入では金銭的報酬は得られないが、料理を作る楽しみや子育てすることから得られる喜びなどの非金銭的報酬が得られるメリットがある。一方、家計内部での労働投入のコストは余暇を犠牲にして肉体的・精神的な疲労をもたらすこと、さらには、労働市場に参加しないことで得られるべき賃金を放棄すること(機会費用の発生)もデメリットとして捉えられる。

したがって、サービス産業が生まれる余地があるのは、家計内部で上に挙げたようなメリットよりもデメリットが上回っている場合である。例えば、現在、若者の車離れが進むのは、車への魅力が低下していることもあるだろうが、所得や雇用環境の悪化を考慮して、車を購入するコストが高いと感じているからである。保育サービス需要が大きいのは、家計所得の減少により、家庭内労働よりも労働市場に出て賃金を稼ぐ方がメリットは大きいと感じているからである。こうした家計内部での生産のメリットとデメリットを調べることで、外部化できる新たなサービスの発見が可能になるかもしれない。

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溝端 幹雄
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 溝端 幹雄