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民主党の子ども手当はトロイの木馬?

2009年09月09日

高橋 正明

総選挙で圧勝した民主党が政策の目玉として掲げる「子ども手当」への風当たりが強い。子育て支援の拡充を求める人でも、親の遊興費や飲食費に消えてしまう可能性のある現金給付より、学費や給食費値下げといった現物給付が適切だと主張している(大敗した自民党も同じ)。

このような意見が多いのは、きちんと子育てしているとは思えない一部の親たちの行いが目に余るからだろう(実際、親と接する機会の多い教師に反対が多いようである)。そのような親たちへの現金支給は、税金を無駄遣いし、社会の公正を損なう「盗人に追い銭」の愚策だと批判されているのである。

はたして民主党は盗人の味方か、あるいは人を疑うことを知らない底抜けのお人好しなのか。それとも何か秘められた狙いがあるのだろうか。深読みしてみよう。

子ども手当とは、国が「子育て事業支援」として子供のいる家庭に税金を投入することである。国には税金が適正に使われているかをチェックする義務と権利があるから、親が子ども手当を適正に使っているかをチェックし、必要とあれば金融庁のように「改善命令」をどしどし発動しなければならない。これまでは私事(privateの領域)とされ、「どう育てようと親の勝手だ」が通用した家庭での子育てが、公的資金を受け入れることで、公(public)のルールに従う義務が明確に生じるのである。かつては男女間や家庭内の問題であり、公権力の介入は不適当とされていたストーカーやドメスティック・バイオレンスが今では犯罪として罰せられるように、ルールを遵守しない親を国・社会は許してはならない、という社会意識が醸成されていくだろう。

また、子ども手当の支給は、学校を悩ませる給食費等の未払い問題も解決する。「金がないから払えない」という言い訳が通用しなくなるので、払わない親を悪質なフリーライダー(社会にただ乗りする人)としてあぶり出し、制裁を加えることが容易になる。

こう考えると、子ども手当は「盗人に追い銭」とは逆なのではないか。家庭に「治外法権」があることをいいことにやりたい放題してきた親たちが、子供1人あたり月額2.6万円と引き換えにその自由を制限され、国の監督下に置かれてしまうのである。戦利品と思って手にしたら最後の「トロイの木馬」のようなものである。社会の公正を損なう身勝手な人々をあぶり出し、制裁できるようになるのだから、国と大多数の国民にとっては有意義・有効な支出だろう。

日本は税や社会保険料が他の先進国に比べて少ない(→財政赤字が大きい)にもかかわらず、増税への抵抗が強いが、その根源には「公正が実現されていない」「悪い奴らが野放しになっている」という不信・不満がある。だが、子供を犠牲やだしにした身勝手な行為が一掃されれば、国民も増税を容認するだろう。これは、将来世代への負担の先送りを繰り返してきた既存の経済社会システムを捨て、低成長でも持続可能な新システムに移行すること、すなわち日本社会を根底から変革する決断を国民が下すことを意味する。

以上はあくまでも深読みである。だが、もしもこの深読みシナリオが実現すれば、不信と閉塞感に覆われた日本社会の空気は一変し、新たな方向へ向かう活気が湧いてくるかもしれない。子ども手当にそこまでの狙いが秘められているとするなら、その発案者はオデュッセウス並みの策士である。


参考神保哲生「国民総背番号制で税金・社会保険料を徴収。実は強面な「3つのフェアネス」政策」(ダイヤモンド・オンライン)

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