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行政キャッシュフロー計算書の利害調整機能

2009年02月13日

金融調査部 主任研究員 鈴木 文彦

視点を離して見えるものがある。夕張市が財政破たんを申請したのが2006年の夏だった。すでに2年が経過したがその後地方自治体が破たんしたという記事は見られない。しかし地方公営企業や外郭団体に視野を拡大してみると、休廃業や債務整理の事例が時々見られる。昨年、青森市の駅前ビル「アウガ」に対する23億円の債権を約9億円で青森市が買い取るという話があった。これによって、銀行等は差額の約14億円について債権放棄を余儀なくされた。また、銚子市の市立病院は経営悪化の末9月末に休止するに至った。銚子市が財政難により補助金を支給することができなくなったためである。このように、自治体本体はともかく地方公営企業や外郭団体と一体的にみれば自治体財政の再建が喫緊の課題であることに変わりはない。

しかし難しいのは、財政再建に当たり地域の利害がしばしば対立する上に、それぞれの立場で正しさがあることだ。先ほどの例で言えば、銚子市立病院の休止を受けて、これに反対する市民グループが市長のリコールを請求している。救急医療や精神科医療など不採算部門を担う公的医療の役割は大きい。あまつさえ人口に占める高齢層の割合が高い地方にとって医療サービスに係る需給ギャップの問題はより深刻だ。一方、青森市の駅前ビル「アウガ」は年間600万人の集客があり、コンパクトシティ構想による中心市街地活性化策の先進事例としてよく採り上げられていた。
また、夕張市の破たんの要因となった過大な借入残高であるが、その背景には炭鉱の閉山による地元経済の衰退があった。テーマパークやスキー場など観光施設に投資して地域経済を再生しようとしたのである。
行政支出でウェイトが最も大きいのは人件費であるが、程度はともかく全国の99%の団体で給与削減を実施しているとのこと。これも徹底するのは簡単ではない。岡山県は、財政再建策の一環で全国最低水準に県職員の給与を引き下げようとしたが職員組合の反対で断念した。
あちら立てればこちらが立たぬ。閉塞感さえ漂いだす。

高齢化にあわせ病院や介護への補助を厚くするのか、駅前にビルを建てて街に賑わいを戻すのか、ひとつひとつはもっともな施策も、あれもこれも行えば自治体財政の悪化をもたらす。問題は、どれだけの施策が実現できるのか財政の余裕度(または危険度)や、当の施策がどの程度財政に影響を及ぼすかがよく見えないことだ。切り分けようにもケーキの大きさがわからない。取り分けてどれだけ残るかよく見えない。

これを解決するのが、2008年12月3日付コンサルティングインサイト「行政キャッシュフロー計算書でみる地方財政」で紹介した行政キャッシュフロー計算書であると考える。これは企業分析になぞらえて地方公共団体の財務状況を把握するシステムで、そもそもは自治体の返済能力を診断するツールとして作られた。収入のうち借入等を除いたものと、支出のうち借入返済や建設投資等を除いたものの差額である「行政収支」を返済財源とし、これと借入金の大きさを比べることによって自治体の返済能力を推し量る。
これに照らせば、給与費や補助金が嵩んで税収等行政収入を上回れば行政収支は赤字になるし、建設事業等に伴って返済能力を超える借入を起こせば財務状況に懸念が生じることになる。放置すれば健全化指標が早期健全化基準に抵触しイエローカードがかざされるだろう。要するに、行政キャッシュフロー計算書を使えば施策が財政へ与える影響がシンプルな形で目に見えるのだ。会社と同じような尺度で見るためわかりやすく、財政余裕度(または倒産危険度)として地域住民と認識を共有することができる。
行政キャッシュフロー計算書が示す財政運営のポイントは、行政収支を黒字に保ち、これで返済できる水準に借入金をコントロールすることだ。このポイントに鑑み、すべからく子どもたちの世代に負担を先送りしないよう許容範囲を踏まえた上で、自治体の行なう事業について建設的に議論されることがのぞまれる。医療の充実か、中心市街地活性化か、道路かダムか市民ホールか、エクセル表でシュミレーションしながら、みんなが納得するお金の使い道を考えられればよいと思う。

閉塞感漂う時代、行政キャッシュフロー計算書が債権者はじめ地域住民や職員等の様々な利害関係を調整する道具として使われることを切に願う。財務会計の本質的な機能のひとつとして、行政キャッシュフロー計算書にも利害調整機能があるのだ。

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鈴木 文彦

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金融調査部
主任研究員 鈴木 文彦