地域・パブリック
行政キャッシュフロー計算書を用いた地方財政分析

2008年12月3日

財務省は、確実かつ有利な運用が義務付けられている財政融資資金の融資主体として、地方公共団体の財務状況のモニタリングを行っている。平成17年度から始まり、本年で4年目となる。

あくまで貸し手の観点であることから債務償還能力や資金繰り状況に焦点が置かれる。これは一会計年度におけるすべての収入である歳入と、支出である歳出をベースにした歳入歳出決算書では把握しにくい。例えば起債を増やしたり積立を崩したりするのも収入と捉えられてしまうからだ。

そこで、歳入歳出決算書をキャッシュフロー計算書の分類秩序で組み替えて、債務償還能力や資金繰り状況を把握するワークシートが開発された。これを「行政キャッシュフロー計算書」という。「債務償還可能年数」や「有利子負債月収倍率」等、行政キャッシュフロー計算書が示す財務分析指標を活用しながら全市町村についてモニタリングを行い、分析指標が一定水準を超えるなどした団体に対しては財政問題の経緯や改善見通し等についてヒアリングを行っている。

行政キャッシュフロー計算書はむしろ資金移動表の枠組みに近い。行政、投資及び財務活動からなる3つの構成要素のうち「行政活動の部」はキャッシュベースに組み替えた損益計算書に相当し、ここで計算される行政経常収支は減価償却前利益にあたる。通常の損益計算書分析のように、人件費や物件費その他経費を経常収入との比率でみてみたり、過去数年間の推移を辿るなどして財政状態を検証することができる。また、有利子負債等ストック情報と組み合わせた「債務償還可能年数」や「有利子負債月収倍率」等比率分析指標を使って債務償還力や借入水準を測ることができる。このような具合に、あたかも行政サービスを提供する企業を分析するような感覚で地方公共団体を分析できることが行政キャッシュフロー計算書の最大の特徴だ。会社にたとえればどのような状況にあるのかを考えることもできよう。

平成20年6月、財務省は、「地方公共団体向け財政融資に関するワーキングチーム」を設置した。財務状況の厳しい団体に対する具体的なアドバイスを含め、早期改善を促すための財務状況把握の一層の活用のあり方等について検討を行っている。

以上が財務省の財務状況把握業務のあらましであるが、行政キャッシュフロー計算書を銀行等金融機関の地方債審査に応用できないだろうか。 銀行も地方公共団体の主要な貸し手である。

地方財政健全化法に基づく、実質赤字比率等の健全化判断比率は行政措置の発動基準としてモニターする必要がある。一方で、財政上の問題を把握し、適時適切なアドバイスを提供するツールとして行政キャッシュフロー計算書が役に立つと思われる。健全化判断比率の重要性は言うまでもないが、数字の生成過程等が一目ではわかりづらく原因究明やアドバイスのツールとしては若干使いにくい。これを、行政キャッシュフロー計算書を用いたキャッシュベースの分析が補完する格好になる。

行政キャッシュフロー計算書を地方債審査に導入するに当たっても、金融機関にとっては企業取引で培った既存のノウハウを流用することになるので効率的だ。金融機関が持つ緻密な企業審査力が、企業審査と互換性がある手法を導入することで十二分に発揮され、実態把握の精度が高まるだろう。

また、リレーションシップバンキングの実践で蓄積した知識経験を活かしたアドバイスによる改善効果も期待できる。もとより地域経済における公共セクターの影響力は小さくない。業績向上・企業再建ノウハウで培ったアドバイスがもたらす財政運営の効率化によって地域経済の発展に寄与することが期待される。行政キャッシュフロー計算書を媒介としたコミュニケーションによって醸成されるリレーションシップが畢竟地方財政の財政規律に資すると思われる。

もっとも、債務者区分や格付制度、「暗黙の政府保証」との調整など検討すべき課題がいくつかある。大和総研ではこうした論点について研究を進めており、今後折にふれレポートしてゆきたい。

図表 1 行政キャッシュフロー計算書・一部抜粋
行政キャッシュフロー計算書・一部抜粋
出所:財務省財政制度等審議会(財政投融資分科会)資料等を基に大和総研作成 例示の計数は架空のもの。以下の図表について同じ。

このケースの場合、債務償還可能年数は12.6年(実質債務328÷行政経常収支26)、実質債務月収倍率は13.1ヶ月(実質債務328÷経常月収〔300÷12〕)、行政経常収支率は8.7%(行政経常収支26÷行政経常収入300)となる。借入水準は平均並み。キャッシュフロー創出力は平均を下回るものの、債務償還可能年数からみると返済能力に懸念は少ない。ただ手元流動性(現金預金÷経常月収)が0.8ヶ月と資金繰りに余裕がないかもしれない。行政経常収入に占める人件費の割合は市町村平均(平成17年度:25.4%)を上回っている。

図表 2 行政キャッシュフロー計算書の主な分析指標
行政キャッシュフロー計算書の主な分析指標

行政キャッシュフロー計算書の方法をベースにした行財政コンサルティングも行なっています。ぜひご相談ください。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。

お気に入りへ登録

この記事を「お気に入りレポート」に登録しておくことができます。

このレポートのURLを転送する

  • @

執筆者紹介

お問い合わせ

PDFファイルの閲覧にはAdobe® Reader®新しいウィンドウで開きますが必要となります。お持ちでない方は、アドビ システムズのウェブサイトから無償ダウンロードができます。
なお、Adobe® Reader®のインストール方法は、アドビ システムズ ウェブサイト新しいウィンドウで開きますをご覧ください。

Get Adobe® Reader®

コンサルティング

コンサルタント

セミナー