買収防衛策における対価条項
2008年05月08日
ブルドック・ソースのケースでは、敵対的買収者に割当てられた新株予約権を買い戻すことについては、利益供与や会社財産の浪費に当たるのではないかとの疑問が呈された。新株予約権を対価を払って会社側が購入することは、逆に敵対的買収者に対してのみ特別の利益を与えることになりはしないかということだ。この点に疑問を持つ投資家がおり、買収防衛策に賛成するにあたっては、対価を支払うという条項が存在しないことを条件としている。
昨年6月総会の時点では、この対価条項を設けていた買収防衛策はあまりなかった。当時は、実際に新株予約権を割り当てる状況、つまり買収防衛策発動という事態は想定されていなかったからだ。買収防衛策は、買収条件を交渉するための時間稼ぎの道具であり、実際に使われることは無いだろうという理解が一般的だったのではないか。しかし、その前提はブルドックの一件で崩れており、買収防衛策は発動があり得るものと考えられて、制度も作られるようになった。
最高裁は、買収防衛策が適法であるための相当性を評価するのに、「抗告人関係者(敵対的買収者)は、本件取得条項に基づき抗告人関係者の有する本件新株予約権の取得が実行されることにより、その対価として金員の交付を受けることができ・・・」「・・・上記対価は、抗告人関係者が自ら決定した本件公開買付けの買付価格に基づき算定されたもので、本件新株予約権の価値に見合うものということができる。」したがって、「本件新株予約権無償割当てが、衡平の理念に反し、相当性を欠くものとは認められない。」と判断している。この判断を受ける形で、会社としては、会社が買収防衛策を議題にあげる際に、その内容として例えば「非適格者(敵対的買収者)が有する新株予約権を取得し、その対価として本件新株予約権1個につき金銭等の対価を交付することができるものとする」との条項を掲げる例がよく見られるようになった。
しかし、前述の通りこの対価条項には、投資家から批判がある。会社としては、適法性を確保しようとすれば投資家が反対し、投資家の賛成を得ようとすれば、買収防衛策発動の際の適法性に疑問符がつきかねないという二律背反に直面することになる。
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