団塊新入社員が意味していること

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2008年05月02日

  • 調査本部 常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準

春は新入社員の季節である。会社や街角で初々しい新入社員を目にした方も多いだろう。数年にわたる好調な企業業績を背景に、学校を卒業する学生にとっては就職しやすい状況が続いている。ただ、社会を見渡すと、増えている新入社員はどうやら若者だけではないようだ。若者でない新入社員とは、2007年以降、60歳の定年退職を迎えている団塊の世代(※1)である。

団塊の世代が大量退職すると労働力が不足する、熟練技能が失われるなどと、06年以前にはあちこちで心配されていた。だが、問題が生じるかもしれないと分かっていれば、ビジネスの現場では対策が打たれる(※2)。下図に示したように、07年以降、60歳代前半の男性雇用者は著しく増加している。

60歳代前半雇用者の急増は、上の世代より人口が格段に多い団塊の世代が60歳代入りし始めた、という見かけ上だけの現象ではない。70%程度で推移してきた60歳代前半男性の労働力率は、直近で76%まで高まっている(※3)

ただし、労働市場にとどまった団塊世代の多くは、再雇用によって就業を継続していると推察される(※4)。団塊世代は上の世代と同様に定年退職したが、制度的要因もあって再雇用され、改めて新入社員となった。形態は正規社員も増えているだろうが、契約社員や嘱託なども多いだろう。再雇用での賃金は定年前の半分程度かそれ以下、雇用期間は1年更新が一般的といわれる。

少子高齢社会では、意欲と能力のある高年齢者が働くことのできる環境が強く求められる。だが、これまで60歳代を雇用した経験のない職場には、60歳代向けの仕事や高年齢者に関する雇用管理のノウハウが十分にあるわけではない。団塊の世代の働き方について、それぞれの職場が今後どのような工夫をしていけるかは、すべての現役世代にとって重要である。

また、毎春に若い新入社員が増えるのは喜ばしいが、横並びの新卒採用に始まり一律的な定年退職に終わるという断絶型の雇用システムは、超高齢・労働力減少社会では不都合だろう。60歳代の雇用が非正規的に広がりつつある点が問題という意味ではなく、若壮年層全体における年功的・硬直的な雇用慣行が高年齢者の活躍機会を奪っている面がある。労使双方に利点がある定年制の基本は維持するのが現実的だが、年齢にかかわらず様々な働き方ができるような新しい雇用・就労スタイルの確立が急がれよう。

(※1)団塊の世代とは、終戦直後のベビーブーマーたちのこと。1947~49年の3年間は出生数が極めて多く、特にその3年間に生まれた人々が「団塊の世代」と呼ばれている。
(※2)団塊の世代の定年に伴う諸問題については、原田泰・鈴木準・大和総研編著『2007年 団塊定年! 日本はこう変わる』(2006年、日本経済新聞社)参照。
(※3)60歳代前半の労働力率とは、60歳代前半の人口に占める60歳代前半の労働力人口の割合。団塊の世代が上の世代と同じ程度に非労働力化していれば60歳代前半の労働力率は変化しないが、実際には目立って上昇している(下図参照)。
(※4)公的年金の支給開始年齢引き上げに合わせて06年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法は、大多数といえる65歳未満の定年を定めている企業に対して、(1)定年の引上げ、(2)継続雇用制度の導入、(3)定年の定めの廃止、のいずれかを義務付けた。対応状況を見ると、大部分の企業は継続雇用制度の一種である再雇用制度を採用した。

  

図:60~64歳男性の労働市場

(注)労働力率=労働力人口÷人口
(出所)総務省「労働力調査」より大和総研作成

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鈴木 準
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