ビジネスモデルが問われるリスクと投資家

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2007年12月04日

相次ぐ消費者保護の司法判断

英会話学校のNOVAが会社更生手続き開始を申請した。受講料の払い戻しを求める裁判での敗訴が2007年4月に確定したことが同社を危機にさらした引き金の一つだ(※1)。同社では、受講前に一括購入する受講ポイントの単価よりも解約清算時点での使用分単価の方が高額となる清算規定を設けていた。同社は、清算規定に合理性があると主張したが、法の趣旨に反するもので無効であるとの判断が確定した(※2)。これにより、中途解約が急増し、解約返還金の負担が増大した。

このようなビジネスモデルの違法性が法的に確認されたことによる収益圧迫は、消費者金融業界で顕著に生じている。利息制限法と出資法の狭間のグレーゾーンと呼ばれる金利を付することで大きな収益を上げてきたが、徐々に司法がそのような状況を許さない方向で判断を下すようになった(※3)。消費者金融業者にとって過払い金返還は、逃れようのない負担となっている。ほかにも、羽毛布団や呉服の売買契約が無効になり、それに基づく信販会社の請求が棄却されるケースもあった。

ビジネスモデルリスクと株主

ビジネスモデルの法適合性が争われ敗色が濃厚になると、株価は下落する。訴訟で負けなければ株主もそれほどの損失を受けることはなかったのだが、逆に言えば、違法なビジネスによる利益を享受していたのも株主なのである。

消費者の利益を擁護する立法・行政・司法の流れは、ある種のビジネスモデルにとって軽視できない影響を及ぼすが、そのリスクがガバナンス情報や内部統制によって明らかになるとは限らない。談合や食品偽装とは異なり、会社内部に違法であることを指摘する契機がほとんどないからである。投資先の会社がそのようなビジネスを実施しているとしたら、株主は何ができるだろうか。株主の立場を離れ、消費者の視線から実質的に解約権行使の制約になりそうな料金システムや情報格差を利用していると思われる勧誘などの例に気付くことはないだろうか。そのときに、違法スレスレであるが収益を期待できるからには投資を継続するか、法的リスクの顕在化を恐れて売却してしまうか、あるいは株主として法令遵守を経営者に求めていくか、改めて株主の立場から評価し直すことになる。

ある日行政処分や敗訴判決が下り、株価が下落する前に、株主の利益を守るために消費者の視線から投資先の会社のビジネスを見直すことは、意味のないことではないだろう。

(※1)同社は2年前(06年3月決算)から経常赤字であったが、敗訴判決は破綻の時期を早めた程度には影響を及ぼしたといえるだろう。

(※2)特定商取引法49条は消費者の中途解約の権利が不当に害されることを防止することを目的としており、結果的に消費者の中途解約権を不当に害する清算条項は無効であると最高裁は判断した。

(※3)以前から利息制限法を超える過払い分は元本返済に充当されると判断されてきたが、返還請求の際の立証が困難であったために、制限以上の金利が実際上放置されていた。しかし、05年7月の消費者金融業者に対して取引履歴開示を義務付ける最高裁判断等によって返還請求訴訟が容易になった。

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執筆者紹介

政策調査部

主席研究員 鈴木 裕