税源移譲の短期的撹乱と長期的効果

RSS

2007年05月08日

  • 調査本部 常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
家計簿から作成される総務省の「家計調査」で最近の税負担をみると、給与所得に対する所得税に大きな変化が生じている。サラリーマン世帯の勤労所得税負担は、定率減税が半減された06年は増加基調に転じたが(06年平均は前年比9.3%増)、07年1月以降は定率減税全廃にもかかわらず2桁の減少率となっている(07年1-3月期は前年比14.3%減)。

所得税の急減は、国から地方への税源移譲が始まったためだろう。所得税から住民税への移し替えは増減税ではなく、国税と地方税を合わせた納税者各自の負担は基本的に変動しない。ただし、国税と地方税は課税の仕組みや徴収方式が異なるため、一般的なサラリーマンの場合、先行して07年1月から所得税が減り、07年6月から住民税が増える。

現在は、いわば“期間限定超短期特別減税”実施中である。税負担が減っている1~5月は家計の可処分所得が押し上げられているが、6月になれば負担増が始まる。もちろん定率減税全廃によって、全体としてはネット増税となる。もし、お金が手元にあればあるだけ支出するような近視眼的な家計や、税制の変更を誤解している家計が多いとしたら、07年の消費は撹乱されているかもしれない。

しかし、2月中頃に調査された内閣府の「税源移譲に関する特別世論調査」によると、税源移譲や定率減税廃止の認知度は決して低くない。今回の税制改正を知らない人もある程度は存在するが、そもそも所得税や住民税をあまり負担していない所得層は関心が低いだろう。多くの家計はどうやら負担増になると冷静に認識し、合理的に行動しているのではないか。

むしろ注目されるのは、行政サービスの財源を地方自身が持つ長期的な効果だ。今後も所得税が住民税より重い家計は高めの所得層に限られ、大多数の人は居住する身近な自治体への納税が格段に増える。国から配られた“他人の金”ではなく、“自分の金”である住民税が財源である方が、地域の運営は真剣になり、知恵が絞られるだろう。税源移譲が各地方の自主性と自己責任を高めることになるか、大実験が始まっている。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

鈴木 準
執筆者紹介

調査本部

常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準