ガバナンス情報開示の効果

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2007年03月23日

コーポレート・ガバナンスに関連する会社情報開示についての制度が相次いで実施されつつある。

金融商品取引法に基づくいわゆる「日本版SOX法」の目的は財務報告の正確性の確保が中心だ。また、会社法の下では業務全般のリスクを対象とする内部統制システムの構築と、その開示が求められる。コーポレート・ガバナンス情報の開示に特に焦点を当てた制度改正としては、2003年の証券取引法関連規則改正で、「コーポレート・ガバナンスの状況」の項目が新設されたし、東京証券取引所では、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」の提出を求めており、既に実施されている。

こうした情報開示の強化によりコストが嵩む結果、かえって業績を引き下げはしないかと危惧されるほどだ。特に日本版SOX法対応では、文書化の作業量が膨大であり、軽視できないコスト負担が生じるおそれがある。しかし、そのコストを凌駕するだけのベネフィットが期待できるのであれば、積極的な取り組みは報われる。

情報開示は、投資家側にとって利益になるだけでなく、会社側にとってもメリットをもたらすはずだ。投資家は投資対象となる会社のリスクに対しては補償を要求する。低格付け会社の資金調達条件が不利になることを見れば明かだ。充実した情報開示は投資家にとって投資リスクを減ずる効果があるので、一連の情報開示強化に積極的な取り組みを見せれば、投資家はこれを評価して、要求するプレミアムを引き下げるようになる。すなわち、会社にとっては資金調達条件が改善すると期待できる。

とはいえ、そのような期待が常に現実のものとなるわけではない。開示によって、ガバナンス状況が劣悪であることが判れば、かえって投資家の不安感を強めるかもしれない。会社によっては、情報開示によってさらに不利な状況に直面する恐れも生じ得よう。しかし、平均的には、会社のガバナンス状況が良好であろうと劣悪であろうと、そのような事実が開示されることによってリスクは低減される。ガバナンスが悪ければ、どれほどの悪さであるのかが判ることも、投資家にとっては有益な情報だからだ。

情報開示は、会社に対する取締り規制ではなく、投資家とのコミュニケーションのツールだと考えるべきだ。コミュニケーションを強めることによる利益を投資家と会社側が共に獲得できる機会であると、前向きに捉えていきたい。

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執筆者紹介

政策調査部

主席研究員 鈴木 裕