中国のエネルギー効率向上と環境保護の難しさ

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2006年12月21日

中国の第11次5ヵ年計画(06年~10年)では、経済成長の「速さ」から「質」重視への転換を進めるべく、エネルギー効率の向上や環境保護などに力を入れようとしている。しかし、スタート当初の実績を見る限り、その前途は多難である。単位GDP当たりのエネルギー使用量は06年上半期で0.8%増加し(目標は年4%削減、5年間で20%削減)、5年間で10%の削減を目標とする主要汚染物資の排出量は、上半期でCOD(化学的酸素要求量)が3.7%増加、二酸化硫黄は4.2%増加と、政府目標とは正反対の方向となってしまった。

この背景としては、中央が成長の「質」重視に大きく舵取りを変更しているにもかかわらず、地方政府は相変わらず、地域の経済成長率など成長の「速さ」の追求に勤しんでいることがある。中国の31の省・直轄市・自治区の第11次5ヵ年計画の主な数値目標をみると、地方が積極的な目標を掲げているのはGDP成長率、都市住民と農民の収入の伸び率などであり、例えば、5年間の実質経済成長率は、国家目標の7.5%に対して、地方の単純平均は10.1%に達するほどである。一方、地方が達成に不熱心なのは、単位GDPに必要なエネルギー使用量の削減目標や環境保護、R&D投資のGDP比率などの項目であり、一部の地方では、当地の第11次5カ年計画の数値目標として明記すらしないところもある。

では、こうした状況の改善には、どのような方法が効果的なのだろうか?最も効果的なのは、地方幹部の昇進のための政績(政治的成績)の評価項目を変えるなど制度的な仕組みを作り上げることであり、中国はその第一歩を踏み出そうとしている。中国共産党中央組織部は、06年7月に「科学発展観の具現に要求される地方の党・政府幹部の総合評価審査のテスト方法」を策定し、地方幹部の「政績」評価に新たな基準を設けたのである。実績評価の項目では、(1)資源消耗と安全生産、(2)社会保障、(3)人口と計画出産、(4)耕地など資源保護、(5)環境保護、(6)一人当たりGDPとその伸び率、(7)都市と農民の収入とその伸び、(8)基礎教育、(9)都市部の就業、(10)科学技術投入と刷新、(11)一人当たり財政収入とその伸び率、(12)文化的な生活、の12項目を掲げ、従来の経済成長率や財政収入を重視するものと比べて、よりバランスの取れた評価方法を採用している。

望まれるのは、今後はこうした評価項目の中で、重要度に応じて、得点配分をきちんとしていくことであろう。当然のことながら優先されるべきは、単位GDP当たりのエネルギー消費量の削減や主要汚染物質排出量の削減などである。現在、2007年秋の中国共産党第17回党大会(今後5年間の政策の重点を決定する重要会議)に向けて、胡錦濤政権の体制強化が進められているが、中央の方針の地方浸透のためにどのような政策が採られるのかにも注目したい。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登