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サービス「無料」のインパクト

2006年11月14日

中島 尚紀

最近、米国のある銀行系証券会社が、月に30回までインターネット経由での証券取引の手数料を無料にすると発表し、大きな話題となっている。発表内容そのものも大きなインパクトがあるが、その会社のコーポレートカラーである赤を基調とした大規模な広告戦略も目立つ。新聞、ウェブサイト、屋外広告、地下鉄の車内、果てはタクシー上の看板など、発表直後からニューヨークのあちこちで広告を見かけるようになった。

この銀行系証券会社は昨年末から手数料を下げ、オンライン証券大手と同水準にしてきたが、マーケットシェアはそれほどでもなかった。銀行の多大なる知名度に比べれば証券会社の認知度は無きに等しく、今回のサービスや広告展開は強いアピールになっている。

実のところこの「無料」には多少の条件があり、銀行口座に2万5千ドル(約300万円)の預金があれば手数料が無料になる、というものである。このため、証券業務を大々的に伸ばしたいというよりは、それほど儲けのなかった取引手数料収入に換えて、コア事業である銀行の顧客数や預金残高を増やすという戦略に過ぎないとの見方が強い。

米国では以前から銀行と証券の垣根は取り払われており、双方の業務を行い総合的な金融サービスを提供するのはごく普通のことになっている。その結果、オンライン証券会社の銀行業務による金利収入も昨今増加している。それでも、銀行と証券のどちらかを本業とし、その強化や収入源の多様化といった目的のため他方に参入するのが一般的である。銀行業務の強化するための証券サービス無料化は、まさに理にかなっているともいえる。

一方、証券業界からみれば「無料」という言葉のインパクトは決して小さくない。これをトリガーにし、個人投資家への取引手数料無料が一般化する事態すらも予想される。(※1)そうなれば、証券会社が提供するサービスやその付加価値とはいったい何なのかを改めて問い直す機会となるのではなかろうか。収入における資産管理費の比率を一層増加させる、または高度な取引システムを提供し手数料収入を維持する、という既存ビジネスの延長で対応するだけではなく、新規事業の開拓により証券業のビジネスモデルが大きく様変わりしてしまう可能性もある。

顧客がいったいどんなサービスを支持するのか、どのように動くのか、証券会社各社はどうやって対抗していくのかなど、今後の動向は非常に興味深い。

(※1)オンライン証券大手各社は、取引手数料はすでに十分に安い事(取引あたり$10(約1,200円)程度)、預金の利率がそれほど高くなく利息で損をしかねない事、証券取引機能が優秀である事などをもとに、現時点で取引手数料を無料化する考えはないとしている。

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