米国の住宅神話

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2006年10月16日

日本の三大都市圏の基準地価が住宅地、商業地ともに前年比プラスと1990年以来、16年ぶりに上昇に転じた。国土交通省は「地価の持ち直し傾向がより鮮 明になった」と分析している。部分的とはいえ、資産デフレに苦しんでいた状態からようやく脱却しつつある。

一方、米国の住宅神話、つまり過去30年間一年を通じて前年水準を下回ったことがないという神話は風前のともしびである。これまで、グリーンスパン前 FRB議長は「土地が広い米国では全国的なバブルが発生する可能性が低い」と説明し、人々は非伝統的な住宅ローン(※1)を利用する等、右肩上がりの上昇を前提に行動してきた。しかし、前年比ではプラスを維持してい る住宅価格の上昇率は05年半ばをピークに大きく鈍化している。また、1割~3割程度と幅はあるものの、現在の住宅価格が割高であるという評価は多い。 キャンセルの増加や在庫の積み上がりを受けて、業者マインドは低迷し価格調整は避けられないだろう。焦点はどこまで調整するか、そしてそれが景気全体に影 響を与えるかである。例えば、「Irrational Exuberance(根拠なき熱狂)」の著者で知られるシラー・エール大学教授等が開発した10大都市圏の住宅価格指数(※2)は、7月に前年比6.7%増まで鈍化したが、先物市場では来年夏には7%減になると見込まれて いる。

悲観的な見方は、住宅価格の大幅な下落が逆資産効果を招き、景気の原動力である個人消費が低迷するというものである。逆に、楽観的な人は、足元の金利低下 が調整を和らげ、堅調な雇用・所得環境が消費を下支えするというソフトランディングシナリオを描く。

先行きは不透明であるが、留意しておくべきは、住宅市場の調整が想定よりも加速している事実である。当初、米金融当局は「徐々に冷え込んでいくだろう」と みていたが、直近では「徐々に」を削除した。実際、06年第2四半期の住宅投資は前期比年率11.1%減に拡大し、95年第2四半期以来の二ケタ減少と なった。住宅着工の減少ペースは第3四半期に入っても衰えず(※3)、今年の住宅投資のマイ ナス成長は避けられないだろう。ただ、ハードランディングシナリオが現実になるためには、長期金利の上昇等の条件がそろっていない。

(※1) 元本返済を先送りするインタレスト・オンリー・ローンや、返済額を一段と抑制して債務が膨らむネガティブ・アモチゼーション・ローン等は、相対的に信用力 の低い層の借り入れの約半分を占めている。
(※2) S&P/Case-Shiller ® Home Price Indices
(※3)仮に9月が横ばいだとすると、第3四半期の住宅着工件数は前期比年率9.2%減になる計算である(第2四半期は11.8%減)。

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近藤 智也
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政策調査部

政策調査部長 近藤 智也