中国の銀行の高い利益獲得能力の背景=限定的な金利政策の効果
2006年09月19日
中国の銀行が高い利益獲得能力を有すると書くと違和感を持つ向きも多いだろう。しかし、現在の預貸スプレッドは1年物で最低3.6%あり、中国の銀行は貸せば貸すほど儲かる構図となっている。さらに、中国では2006年4月と8月に貸出基準金利が引き上げられたが、預金金利の引き上げは8月のみであった。引き締めを意図とした貸出基準金利の引き上げにもかかわらず、4月の利上げ時には銀行の預貸スプレッドは一段と拡大し(最低で3.3%→3.6%)、むしろ銀行の貸出インセンティブを高めてしまったのである。
中国の銀行は政府の手厚い保護を受けている。預金金利は大口預金を除き規制されており、銀行間で金利面の競争はほとんど存在しない。さらに、貸出金利については、下限は貸出基準金利の0.9倍(個人向け住宅ローン金利は0.85倍)と規制されている一方、商業銀行の場合、上限金利は撤廃されている。すなわち、銀行にしてみれば、調達金利はほぼ一定である一方、運用金利は現在のような引き締め局面では高目の金利を設定することが可能となる。先に、預貸スプレッドは「最低」で3.6%としたのはこのためである。そして、高い利益獲得能力(不良債権処理の源泉のひとつ)とこれにインセンティブを得た貸出増加が、不良債権比率の大幅な低下に貢献している。四大商業銀行の不良債権比率は2003年末の20.4%から2006年6月末には9.5%へ低下した。
以上のように、現在の金利政策の貸出抑制効果は極めて限定的である。効果を期待するのであれば、金利感応度の低い借り手が尻込みするほどに金利を引き上げる必要があるが、これは景気のオーバーキルを招く可能性を高めるなど、現実的ではない。では、銀行貸出をスローダウンさせるにはどうすればよいのか。融資可能額を直接引き下げる預金準備率の引き上げ(7月と8月に実施済み)は一定の効果はあるが、効果が大きいのは何と言っても「窓口指導」(行政指導)である。中国証券報などによれば、中国銀行業監督管理委員会は、8月より主要商業銀行16行を四分類し、最も厳しい場合は、新規貸出の拡大停止を要求するなど、行政指導を強化するとしている。8月以降の金融統計からこの効果がはっきりと現れる公算は大きい。銀行経営の効率性向上のスピードアップの問題はともかく、行政指導に多くを依存する限り、銀行の高い利益獲得能力は維持されるのである。
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