退職直後の消費性向は175%

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2006年04月17日

  • リサーチ本部 執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
可 処分所得に対する消費支出の比率を、(平均)消費性向という。それが上昇すると、消費マインドが強い、所得が増えていないので家計は苦しい、高齢化が進ん でいる、などと論旨に応じていろいろに解釈される。

高齢になって就業を終えると、給与などのフローの所得が減少するため消費性向は上昇する。高齢化が進んで消費性向が上昇するというのは、そうした人々が増 えて経済全体でも消費性向が上昇するということである。若壮年層とは違って高齢無職世帯の消費性向が100%以上(貯蓄率がマイナス)であることは広く知 られている。高齢になると、若壮年期に蓄積してきた貯蓄を取り崩しながら消費するようになる。

ただし、人々が高齢無職になった後、消費性向がどのような姿で推移するのかは、ほとんど指摘されていない。人々は高齢化すればするほど消費性向を上昇させ るのだろうか。

図の棒グラフは、高齢無職世帯の消費性向を世帯主年齢別にみたものである。消費性向は、引退直後の60歳代前半で最も高く、年齢が上昇するにつれて低下し ている。高齢になるほど消費が減少する一方で、70歳代前半までは高齢になるほど可処分所得が増えているためである(折れ線グラフ)。

この事実が示唆することは、高齢期を均してみれば現在の公的年金給付が過大である可能性や、高齢者の非消費支出(税負担など)が過少である可能性ではない だろうか。高齢無職世帯のフローの所得は、主として公的年金である。マクロ経済スライドが導入されたとはいえ、裁定された(実質)年金受給額は、消費を減 らしても(加齢に伴い消費が減っても)終身で保障されるのが年金の基本的な考え方である。仮に年金給付総額が、高齢期の消費総額と自身の資産残高とのバラ ンス上で十分過ぎるものであれば、結果として資産を遺産として残すことになる。

無職の60~64歳が世帯主の世帯の金融資産残高は2429万円(2004年)。金融資産からは利子等やキャピタルゲイン収入が期待できることに加えて、 高齢世帯は金融資産を上回る実物資産(宅地・住宅資産など)を持っている。人々は、高齢期になると年金や資産運用から収入を得つつ、資産残高を取り崩しな がら消費を行う。しかし、実際には、高齢無職世帯は70歳以上世帯主であっても2367万円の貯蓄残高を維持している。平均的にみれば、高齢者の中の高齢 者ほど消費性向は高いのではなく低いのであり(貯蓄率のマイナスが小さく)、高齢期を通じて資産残高はそれほど減らないのである。

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鈴木 準
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