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年金一元化の損得論

2005年12月08日

政策調査部 主任研究員 鈴木 裕

発する人によってその意味が異なる言葉は多いが、「年金一元化」もその一つだ。前回の衆院選では、民主党が「自営業者を含めた」一元化を提案し、自民党は「被用者」の範囲での一元化を政策として掲げた。

民主党案では、自営業者も所得比例で年金を受給できるようになるが、そのための負担もしなければならない。民間サラリーマンの厚生年金保険料率が今後18.3%にまで引き上げられることを考えれば、自営業者に大きな負担が新たに生じることになる。将来の年金増よりも、現在の負担増を嫌う人が多ければ、そのような政策は支持されないだろう。

選挙結果から見ると、今後「年金一元化」という用語は、公務員(共済年金)と民間サラリーマン(厚生年金)の被用者年金制度統合を意味することになる。

もっとも「年金一元化」は、衆院選で新たに出された問題でもない。1980年代に進められた基礎年金(国民年金)も同じ用語で説明されたし、JR共済や農林共済の厚生年金への統合も一元化の一環だ。今後の「年金一元化」が、各種共済を厚生年金に統合することだとすれば、JR共済や農林共済の統合と同じ意味での統合であるかといえば、実はそうではない。

JRや農林の一元化では、救済措置としての統合だったが、今後の公務員共済統合にはそのような目的はない。むしろ公務員制度改革の一部であると考えた方が良さそうだ。

JR・農林共済では、その職域人口が急激に減少し、賦課方式的財政の破綻が明白であったため、厚生年金への統合が行なわれたが、現在の公務員共済の財政は、厚生年金よりも良好であるから救済の必要はない。JR・農林共済は、厚生年金に統合しなければ、多くのJR職員・農林業従事者の年金給付に支障が生じるが故に、統合の必要性が主張された。しかし、公務員共済では、そのような理由での統合の必要性は指摘されていない。

公務員共済で問題視されているのは、厚生年金よりも優遇されているように見える点だ。公務員年金は、厚生年金よりも低い保険料率で高い給付を行なっている上、転給制度(遺族年金受給権の移転)など一般国民よりも手厚い年金制度になっているのを是正して、一般国民と等しくべきだという指摘だ。もっともこれらの優遇は、年金数理的に不当な計算に基づいて行なっているわけではない。負担無き給付となっている旧恩給制度部分を除けば、被保険者集団(つまり公務員)の年齢構成や収入が国民一般と異なるのだから、厚生年金と同列でないことが、国民の直接的な負担増になっているとも言えない。また公務員に対して退職後の生活安定を保証することで、在職中の不適正な誘惑を撥ね退けられるようにすることは、公務の適正を確保する手段として効果的だから、国民の利益にかなったものであるとも言える。国家公務員法上も公務サービスの特殊性を配慮して、政府の責任で公務員年金制度が、樹立し実施せられていると位置付けられている。

つまり、公務員年金が厚生年金よりも低負担・高給付になっているからといって、直ちに統合すべきという結論にはならないということだ。

公務員年金の統合は、公務員にとって不利益をもたらすだけでなく、国民にも不利益となる可能性がある。退職後給付についての金銭的な不利益変更が、公務員の就労態度に悪い影響を及ぼさないとも言えない。一般に報酬等賃金のカットは、労務の質を低下させる可能性を強めるものと思われる。そして公務員の労務、すなはち公務の質の低下は、国民の損失に直結するのである。

年金一元化は、そのような意味で公務員制度の改革と密接な関連性をもつ。公務の安定的・継続的な運営の確保の観点と国民生活へ与える影響の観点などを総合的に考察しなければなるまい。その際に、もう一つ考慮に入れておくべきことは、制度の透明性と比較可能性だ。公務員年金が民間よりも有利なように見えるもう一つの理由としては、公務員では年金と退職金が別立ての制度であるのにたいして、民間では企業年金は退職金の内枠となっている事実がある。民間では、退職金と企業年金をあわせて2800万円程度が平均だが、国家公務員では退職金だけで2900万円だ。これに加えて共済年金の職域加算があるのだから、いったいどのくらい優遇されているか、疑心暗鬼になるのも無理はない。公務の適正性を確保するために公務員には、民間とは異なる処遇があっても当然だが、それが正当な程度であるか、判断の材料を解りやすい形で提示することが求められる。

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