ディズニー株主総会と年金資金
2004年03月12日
ディズニー社の株主総会で、役員選任に関して多くの批判的投票が出るのは、これが初めてではない。何しろ同社は、Business Week誌が行なった米国企業の取締役会評価で連続してworst(最悪)の地位を占め続け、直近の2002年の調査でようやく、その改善を評価されたほどだ。アイズナー氏中心の経営は20年近くに及び、その間、取締役会構成の適正化が株主提案によって要望されることもあったが、全て否決されてきた。ディズニー社の取締役会が高く評価されてこなかったのは、そのメンバーの多くがディズニー社との取引関係を持ち、またアイズナー氏の私的な友人であるため、経営判断の適切性に疑問がもたれていたからだ。これを払拭するために、創業者グループからの取締役の受け入れや、コーポレート・ガバナンスに関するアドバイザーの導入を図ったのだが、その肝心の改革が瓦解した後の総会であった。
そのように元々批判される要素の多いガバナンス構造を持ったディズニー社だが、これまでは株主の信任を勝ち得ていた。だからこそ、アイズナー氏も長期にわたり経営権を維持できていたのだ。株主は、株価が堅調であれば経営を信頼し、ガバナンスに多少の疑問を感じたとしても、経営陣の再任に反対しない。株式投資の目的は投資収益の獲得であって、投資先企業のガバナンス向上ではないからだ。今回、多くの年金資金がアイズナー氏再任に反対したのも、取締役会改革が挫折したからではなく、投資のパフォーマンスへの不満を理由としている。カリフォルニア州職員退職制度(CalPERS)は、早くからアイズナー氏不信任を決めていたが、その理由は過去5年にわたる株式投資収益に満足できず、またその改善に向けての経営陣による対策に信を置けないからというものである。
今回のディズニーのケースは、年金資金が企業のガバナンスに強い関心を見せているように理解されるかもしれないが、それは手段に過ぎない。年金資金が目的としているのは、企業ガバナンス改善の先にある、投資収益の回復なのである。
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