女性活躍のキーワードは 「マミー・トラック」と「イクメン」

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2013年07月03日

  • コンサルティング企画部 主席コンサルタント 廣川 明子

「女性活用」についてお客様からご相談を寄せられる機会が増えている。日本再興戦略で「女性の活躍推進」が打ち出されたり、「なでしこ銘柄(※1)」が話題になっていることが背景にあるだろう。しかし、改正育児介護休業法(※2)が施行されて3年が経過し「仕組みは整ったが、職場での運用や意識が追い付いていない」ことに起因する課題が顕在化していることが理由であるように感じる。

ご相談をいただく企業は業種も女性活用の動機も異なるが、いずれも女性の管理職登用に前向きである。共通している悩みは「法改正にあわせて制度を充実させたのに、子育て中の女性社員が昇格したがらないし、辞めていく状況が改善されない」というものだ。

仕事と育児を両立する女性が増える一方、職場では「早く帰ってしまい、残業を頼めない上に、いつ休むかわからない社員」に対して補助的な仕事しか割り当てられないケースが非常に多い。結果として、管理職層に昇格していく独身女性と「マミー・トラック」に乗った女性に分かれてしまっている。「マミー・トラック」とは、仕事と育児を両立はできるが出世とは縁遠いキャリア・コースのことである。昇格しにくいだけではなく、「子供を保育園に預けてまでこの(補助的な)仕事を続けるべきなのだろうか?」と悩んだ結果、退職をしてしまうこともある。制度を拡充させた次の段階として「マミー・トラック」に望まずして乗ってしまった女性に焦点をあてた対策が求められるだろう。

しかし、先進的に取り組む企業にも限界がある。仕事と育児を両立しながら「マミー・トラック」から脱するには、育児や家事に積極的な男性である「イクメン」の存在が不可欠だからだ。「マミー・トラック」の夫婦の育児の分担はおおむね次のようなものである。

妻:短時間勤務を選択して日々の保育園への送迎と家事を担当。子供が急病に罹り保育園から呼び出しがあった場合は妻がお迎え。子の看病のために有給休暇を取得するが、有給休暇の残日数が気がかりである。職場では同僚や上司への配慮と感謝を怠らないが、産前とは働き方も仕事内容も一変し、仕事に意欲を持てずに悩む。

夫:働き方も仕事内容も変わらずに毎日残業。育児は週末に子供と遊ぶことのみ。

このように、妻に育児と家事の負担が集中しているケースが多い。夫婦間で平等に分担しないまでも、例えばせめて夫が週に2日は保育園のお迎えをするだけでも妻の働き方は一変するのだが。

しかし、自社の女性活用のために、別の会社の社員である夫に働きかけることは難しい。また、自社の「イクメン」を増やすことは、企業にとってのメリットを見出しにくく賛同を得にくいだろう。「長時間残業の削減」や「ワーク・ライフ・バランス施策」を通じて行うことができたとしても、組織全体に関わるものであり一朝一夕に実行できるものではない。

ところが、今日からでも個人でも可能なことがある。それは、「イクメン」の邪魔をしないということである。就業時間内に効率的に仕事を終えて「子供のお迎えに行くので定時で上がります」という男性に対して、にこやかに送り出すことまでは望まない。せめて「そんな理由は認めないぞ。俺の時代は…」「みんな残っているのに、男性が育児だなんて…」などと言わない努力だけでもしていただきたい。ネガティブな一言をこらえる方が増えることで「イクメン」が増え、活躍する女性が増え、日本の成長につながるのだから。

(※1) 経済産業省と東京証券取引所が共同で東証一部上場企業の中から、女性活躍推進に優れ、かつ財務的なパフォーマンスが高い17社を選定した
(※2)2010年6月30日施行。希望した社員が活用できる短時間勤務制度や時間外労働免除の制度導入が義務化された

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廣川 明子
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コンサルティング企画部

主席コンサルタント 廣川 明子