排出権価格の上昇はインフレの歯止めとなるか
2026年01月14日
米国でのトランプ大統領の再登場以降、地球環境問題は社会的な話題になりにくくなった印象だ。トランプ政権は反ESGの姿勢を明確にしており、気候変動対策のパリ協定からは再度の離脱を表明したほか、直近では大元となる国連気候変動枠組条約そのものからの脱退を指示した。また、G7やG20などの国際会議においても、特に環境問題に関しては、米国と欧州の意見の相違などから議論がまとまりを欠く状況が続いている。
しかし、その陰で、欧州(EUとアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーからなる欧州経済領域(EEA))での排出権取引(EU ETS)価格は足元でジリジリと上昇していることに注目したい。排出権価格は月次終値の前月比ベースで2025年12月まで6カ月連続で上昇しているほか、約3年ぶりとなる過去最高値の更新も視野に入りつつある。
一方、足元では世界平均でのCO2濃度の上昇ペースは速く、2024年には対前年差で観測史上最大の上昇幅を記録した(温室効果ガス世界資料センターのデータ)。これは、近年指摘されることが多い地球温暖化の加速や、世界的な異常気象多発の一つの要因となっている可能性があろう。そして、CO2濃度の変化は、排出権価格の変化と逆相関の傾向が見られる(図表参照、排出権価格については逆目盛での表示であることに留意)。このことから、直近見られる排出権価格の意外な上昇は、今後のCO2濃度の上昇に歯止めがかかることを示唆しているかもしれない。
CO2濃度の上昇については、人類の経済活動の活発化に伴うCO2排出量の増加が主な要因の一つであると考えられるが、排出権価格の上昇は主に企業のコスト負担増加を通じてCO2の排出量削減への圧力となる。中長期的には技術革新を促すとしても、短期的には経済活動そのものに抑制効果を発揮する可能性があろう。足元の世界経済を支えている、各国での財政支出拡大による消費刺激への期待や、AI関連を中心とする投資ブームへの期待に対して、重しとなる可能性があることに注意が必要だ。一方で、各国が悩むインフレ率の高止まりや、インフレ再加速への懸念に対しては、歯止め役になるのかもしれない。
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- 執筆者紹介
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経済調査部
シニアエコノミスト 佐藤 光

