日中関係悪化、中国は自国経済・社会の不安定化回避を優先か
2025年12月10日
2025年11月7日の高市早苗首相による「台湾有事」に関する国会答弁に中国が猛反発し、日中関係が悪化している。中国外交部(外務省)は11月14日に自国民に日本への渡航を当面控えるように注意喚起し、16日には教育部が日本への留学計画を慎重に検討するように求める通知を発出した。19日には日本の水産物に対する事実上の輸入禁止措置が発表された。日中間の様々なイベントや交流事業も中国側からの要請により中止もしくは延期が相次いでいる。
2010年9月の尖閣諸島沖における中国漁船衝突事件と、2012年9月の尖閣諸島国有化の際にも、中国は猛反発した。漁船衝突事件の際には、中国は日本に対するレアアースの事実上の禁輸措置を取り、尖閣諸島国有化後は戦後最悪といわれるほどに日中関係が悪化した。中国国内での日本製品の不買運動が発生し、日本に関連する施設が強奪・焼き討ちの対象となるなど、抗議行動が激化したのだ。尖閣諸島国有化の翌月である2012年10月には中国国内の日本ブランド車の販売が前年同月比で6割減となった。
しかし、今回は中国国内で日本製品に対するボイコットや日本に対する大衆動員的な抗議行動は、(今後、発生する可能性は否定できないが)行われていないようにみえる。日本の外務省アジア大洋州局長が中国を訪問し、その際の不遜な態度が物議を醸した中国外交部のアジア局長は、局長級会談の直後に在中国の日系企業を訪問し、「中国で安心して事業活動をしてほしい」旨を伝えたと報道されている。これには、日本(外国)企業の撤退加速などによって、中国経済が一段と悪化するのを防ぎたいとの思惑があるのではないだろうか。
考えてみると、中国の人々が日本への渡航(旅行)を控えれば、中国国内の旅行需要が喚起されるかもしれないし、優秀な人材が日本に留学せず、国内に残れば、人材流出が防げるかもしれない。一方、中国国内で反日デモなどが発生すれば、それが反政府・反共産党デモに変質する懸念は否定できない。中国による日本への措置には、「自国経済・社会のさらなる不安定化につながらない」という前提条件が付けられているように思える。2012年9月の尖閣諸島国有化後のようなことが起きないことは、日中双方にとって当然よいことだ。ただ、その背景にある中国経済・社会の不安定性や脆弱性という問題にも注視が必要であろう。
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調査本部
主席研究員 齋藤 尚登

