政府の純債務とマクロバランスで考える財政の持続性

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2025年12月08日

  • 調査本部 常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準

高市早苗内閣は、財政に対する信認を得る上で、純債務残高のGDP比の低下が重要と考えているようである。政府保有の金融資産は別途の目的があるし、借換え時に市場にさらされるという点では総債務にも注目すべきだが、政府のバランスシートを考えるとき純債務が重要であることは確かだ。また、そのGDP比の低下は財政の持続性の向上を意味する。

純債務残高の変動は、負債残高の増減と金融資産残高の増減の差である。すなわち、負債と資産の価格変動分を除けば、それは財政収支と同値である。純債務残高の変化をモニターするということは、財政収支に注視すると述べているにほぼ等しい。

また、純債務残高GDP比の低下とは純債務の増え方がGDPの増え方以下であるということだから、GDPとの対比で純債務残高の増分である財政収支の赤字縮小が図られるということだろう。財政収支は「金利のある世界」を迎えてより重要な指標であり、結局のところ、基礎的財政収支(PB)と純利払いとに要因分解できる。

PBに関しては、改革の戦術として期限を設定し黒字化が目指されてきたが、数年単位でバランスをとるのが合理的である。筆者は2025年2月25日に衆院予算委員会公聴会に招かれた際、「求められていることは、どこかで一度PBが黒字にタッチすればよいということではなく、高齢化が厳しくなる2030年代を乗り越えられるような財政構造をつくることでありますので、ある年の、単年度の収支尻だけが問題ということではありません」と述べた。

もう一方の純利払いに関しては、2022年頃からインフレ率の上昇によって名目GDP成長率が高まる中、利払い費は2016年秋から2024年春まで日銀が長期金利を政策的・人為的に低く抑えた影響を当面は色濃く受ける。現在でも実質長期金利はマイナスないし0近傍であり、しばらくは低位にある純利払いが純債務残高GDP比を引き下げる方向に働く。ただ、これは時間が稼げるということであって、いずれは債務残高に見合った小さくない金利支払いに直面しよう。

経済の実力と歩調を合わせた金利上昇は、何ら問題ではない。課題はそれを超えたプレミアムを生じさせないよう、経済の再生と財政の持続性を両立させることだ。<民間貯蓄-民間投資>+<政府貯蓄-政府投資>-<輸出等-輸入等>=0というマクロ的な恒等関係があるから、財政赤字である<政府貯蓄-政府投資>のマイナス値が縮小する際には、同時に民間の資金余剰である<民間貯蓄-民間投資>のプラス値が縮小していなければならない。それは、民間企業が投資を拡大させ、家計が消費を増やせている状況に他ならない。

その意味で、政府だけでなく企業も家計もそれぞれが同時に変わらなければ事態は改善しない。ここで第一の問題は、財政の持続性確保にも取り組んでいると政府が信認されていなければ、成長戦略を掲げても政策体系全体への信頼が十分ではないため企業の投資や家計の消費は活性化しないだろうということである。民間の資金余剰と政府の財政赤字は鏡のような両建て関係にあり、財政規律をあまり重視しないまま政府投資を拡大させても、経営者は投資のリスクをとらず、民間の資金余剰が増える(あるいは経常収支赤字になる)だけに終わりかねない。

第二の問題は、現在の財政赤字は政府投資によって生じているのではなく、政府貯蓄の赤字によって生じているということである。貯蓄とは経常的な収入と経常的な支出の収支尻であり、特に社会保障費の増加による恒常的赤字(日々の資金不足)に政府は陥っている。まさに財政の持続性が問われるこの問題は、経済成長やインフレだけで解決できるものではなく、政府が政府として取り組まなければならない課題である。

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鈴木 準
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