コーポレートガバナンス・コードのスリム化だけで問題は解決するのか

RSS

2025年11月26日

金融庁は、2025年6月に公表した「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」の中で、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)改訂の方針を示していたが、2025年10月から、金融庁と東京証券取引所(東証)が事務局を務める「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」(有識者会議)が開催され、改訂作業がスタートした。CGコードの制定(2015年制定、2018年・2021年改訂)は、多くの企業が必要な経営変革を進める、一つの重要な契機にはなったと考えている。しかし一方で、時を経るにつれてCGコードの内容は詳細化した。CGコードへの対応状況の開示なども含めて企業の対応コストが増大するとともにCGコードへの形式的な対応も助長され、CGコード制定当初のプリンシプル・ベース、コンプライ・オア・エクスプレインの考え方からは相当な乖離が生じている、との声が聞かれるようになっていた。

こうした中、有識者会議では、事務局から、CGコードのスリム化を図ることが提案された。CGコードは、現在、「基本原則」(5項目)-「原則」(31項目)-「補充原則」(47項目)という建付けをしているが、このうち、「補充原則」について、重要なものは「原則」に格上げする一方で、そうでないものは「原則」に関する「考え方」として記載し、コンプライアンス・オア・エクスプレインの対象外とする。また、「補充原則」のうち、必要性が低下したものや重複があるものなどについては削除する。さらに、CGコードに新たに序文を設け、プリンシプル・ベース、コンプライ・オア・エクスプレインの趣旨を再周知することが提案された。

上に述べたCGコードをめぐる問題点の指摘に照らして、今回の提案は適切な方向のものだと評価できる。有識者会議の場でも多くの賛同が得られていた。しかし、今回の提案に沿ってCGコードの改訂を行ったとして、本当にそれだけで問題が払拭されるのかについては不透明な部分が残されている。というのも、現実には、各運用機関(その多くはパッシブ運用を主体としている)から、かなり詳細な議決権行使の方針・基準が公表されていて、企業は事実上これに規律される形となっている。これらの方針・基準には、様々な数値基準も設けられ、次第に厳格化される傾向にある。CGコードをスリムにして、プリンシプル・ベース、コンプライ・オア・エクスプレインの趣旨を序文に書いたとしても、こうした状況が放置されていては、金融庁や東証が思い描く「コーポレートガバナンス改革の実質化」の真の実現には至らないかもしれない。

企業の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上をねらいとしたCGコードの趣旨からすれば、そこで機関投資家に主として期待されていたのは、各企業のビジネスモデルや事業ポートフォリオの状況を評価し、当該企業が企業価値創造のためのプランを適切に策定・実行しているかなどについて建設的な対話を行ってもらうことだったはずだ。しかし、現実の姿は、これには程遠い。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

池田 唯一
執筆者紹介

専務理事 池田 唯一