「マムダニ旋風」は、打倒「トランプ・共和党」に向けた民主党の「切り札」となるか

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2025年11月12日

2025年11月4日に実施された米バージニア州知事選、ニュージャージー州知事選、ニューヨーク(NY)市長選では、いずれも民主党候補が勝利を収めた。2024年11月の大統領・議会選挙で苦杯をなめた民主党にとっては、一年越しの雪辱を果たした形だ。

なかでも注目されたのは、NY市長に当選したゾーラン・マムダニ氏だ。民主社会主義者を自認するマムダニ氏は格差是正を訴えて、保育費の無償化、市内バスの無料化、家賃引き上げの凍結、政府補助金付き食料品店の設置など、生活に密着した政策を打ち出した。そして、その財源として法人税率の引き上げや富裕層への増税を主張している。今回の市長選でマムダニ氏と争ったアンドリュー・クオモ前NY州知事は中道左派的な政策を掲げ、マムダニ氏の急進的な姿勢を懸念する富裕層などの支持を得た。しかし、就職難や物価上昇に苦しむ有権者の共感を集めたのは、マムダニ氏の「生活第一」のメッセージだった。

マムダニ氏の勝利がこれほど注目されたのは、その選挙戦略が「トランプ・共和党」打倒を目指す民主党にとって新たな「切り札」となる可能性を秘めているからだ。米国の中道左派系の政治団体である“Welcome”の報告書によると、2024年大統領・議会選挙での民主党の敗因は、文化的リベラリズムに偏りすぎて、経済や生活といった有権者の関心を軽視した点にあるという(※1)。マムダニ氏の選挙戦略は、その反省を踏まえた実践だったといえよう。本人も勝利演説で、「トランプ大統領を倒す方法を示し得るのは、トランプ大統領を生んだこのNY市だ」と語り、会場は熱狂に包まれた。いわゆる「マムダニ旋風」が吹き荒れた瞬間だった。

とはいえ、「マムダニ旋風」が全米に広がるかとなると話は別だろう。マムダニ氏が掲げる民主社会主義は、民主党内でも急進的すぎるとの見方が少なくない。民主党主流派のジェフリーズ下院院内総務は期日前投票直前までマムダニ氏への支持を明言せず、シューマー上院院内総務に至っては支持・不支持の態度を示さなかった。民主党内でも賛否が割れる民主社会主義は、共和党はもちろん、無党派層からも支持を得にくい。厳密には民主社会主義とは異なるが、社会主義に対する世論調査によると、好印象を抱くのは民主党支持者で約66%と高い一方、共和党支持者は約14%、無党派層では約38%にとどまる(※2)。米国では政府への信頼が年々低下しており、「大きな政府」を志向する民主社会主義が広く支持を集めるのは容易ではない。

以上をまとめれば、「マムダニ旋風」が民主党に示したのは、有権者の生活苦に真摯に向き合う戦略が有効という点にある。しかし、その解決策を民主社会主義に求めるかどうかは、別の問題だろう。もし民主党が「マムダニ旋風」に浮かれ、急進左派路線に舵を切るようなことがあれば、打倒「トランプ・共和党」はむしろ遠のくかもしれない。民主党がこうした事態を避けるためには、民主社会主義に代わる現実的な対応策を見出すか、あるいはマムダニ氏が幅広い有権者を納得させるだけの成果を上げられるかがカギとなる。2026年11月の中間選挙まであと1年を切り、民主党に残された時間は多くない。生活の痛みにどう応えるか──その問いに対する答えを見つけられるかどうかが、民主党の命運を分けることになろう。

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矢作 大祐
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 矢作 大祐