AIフィーバーの不都合な真実にどう向き合う?
2025年10月22日
2022年11月にChatGPT(※1)が公開されてから約3年、この間の生成AI技術の進化と関連産業のフィーバーは改めて言葉にする必要もないだろう。産業革命と評する向きもあり、期待は大きく膨らんでいる。最近は著作権の問題やハルシネーション(嘘の生成)の問題など、AIの活用拡大に伴うリスクへの対応が活発に議論されているが、「不都合な真実」とも言える疑念は他にいくつもある。それらは直視されていないか、議論が先送りされているようにも見える。
まずは電力の問題だ。生成AIの登場に伴って、将来の電力需要見通しは大きく上振れしているが、これにどう対応するのか。将来のカーボンニュートラル方針との整合性をどう考えるのか。再生可能エネルギーの拡大テンポが高まらない中、現実的な議論が必要なところだ。わが国では原発の活用に関して国民の理解を得るハードルは決して低くない。
次に、人間の能力開発との関係だ。AIが基礎的な業務を担うことにより、若手の仕事を奪うとの意見をよく耳にするが、これは、未成熟な労働者の能力向上の機会が狭まることを意味する。現時点で付加価値の高い仕事を担える人間は、基礎的作業の経験がベースにあってこそ、ではないのか。AIを活用すれば一足飛びに付加価値の高い仕事を達成できると考えるのは楽観的すぎる。もちろん、そうした潜在能力の高い人もいるだろうし、何十年も下積みを続けるようなことが避けられるのも歓迎される。ただ、AIの発達が人間の能力開発に対してネガティブに働く可能性は十分念頭に置くべきだ。
また、イノベーションとの関連も不透明だ。AI関連で様々な技術革新はあるだろうし、医薬品開発などでのスピードアップが図られる期待は大きい。しかし、過去の情報や人間の思考結果を集めて作り出すAIが、果たして、「新結合」で生み出される本質的なイノベーションにつながるのであろうか。すでにAIはAIが作ったものを学習し参考にすることが日常化しているようだが、同質な結果を生成する方向に進んではいないか。ノーベル賞を受賞する研究者には、長年、独特なこだわりを持ち続けた結果として受賞に至った先生が多い印象もあるが、AIにそれを期待できるのだろうか。研究者によるAI活用が進むことは明らかだが、活用が過ぎれば本質的なイノベーションを阻害する可能性は高まるだろう。
これらは、あくまで疑いであり、「不都合な真実」という表現は正しくないかもしれない。しかし、多くの人が思っているにもかかわらず、議論が十分に行われているようには感じない。AIのさらなる発展を現段階で阻害してはいけない、とか、経済の成長分野の芽を削いではいけない、といった忖度もあるだろうし、関連産業で優位性を確固とする米国のスタンスも関係しているかもしれない。
筆者はAIに否定的な立場を取るつもりはない。ただ、毎日AIと様々なやり取りをしていて抱くのが、「膨大なリソースを使っているのだろうな」、「自分で考えることを放棄しているな」、といった感想だ。
これらの疑念と向き合い、解を導き出すことができれば、それ自体がAIとともに成長する分野となるかもしれず、そちらへも期待を抱きたいが、どうだろう。
(※1)ChatGPTはOpenAI社の商標登録です。
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