新政権は「原始的な低所得者対策」からの脱却を

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2025年10月03日

自民党の新たな総裁が2025年10月4日に選出される。国会での首相指名選挙を経て、10月中にも新政権が誕生する見通しである。

政策面で注目されるのが低所得者対策だ。総裁選候補者のうち小泉進次郎氏や高市早苗氏などは、自民・公明・立憲民主の3党で協議中の「給付付き税額控除」を導入する考えを示している。これは納税額から一定額を控除し、控除しきれない分を現金で給付する仕組みである。一方、林芳正氏は英国を参考に、税・社会保険料の負担から世帯ごとに支援額を決める「日本版ユニバーサルクレジット」の創設を主張した。

当社の「第226回日本経済予測(改訂版)」(25年9月8日)(※1)で指摘したように、日本の格差は米国のような「富裕層の富裕化」ではなく、「貧困層の貧困化」が特徴である。2人の子どもがいる共働き世帯をモデル世帯として国際比較すると、日本は低所得層に対する再分配機能が弱い。物価高が急速に進んだことでその問題が浮き彫りになり、7月に行われた参議院選挙の結果にも影響した可能性がある。

これまでの低所得者対策は、住民税非課税世帯を基準にするケースが目立った。住民税非課税世帯の約75%は65歳以上で(厚生労働省「国民生活基礎調査」)、その多くは年金受給世帯とみられる。公的年金は原則として物価スライドされるため、物価高による年金生活者への影響は抑えられている。高水準の金融資産を保有する世帯も少なくない。一方、納税している低所得の勤労世帯などは給付の対象外だ。給付付き税額控除も日本版ユニバーサルクレジットも、導入には数年単位の時間が必要とみられるが、これを機に「原始的な低所得者対策」からの脱却が望まれる。

そこで課題となるのが、低所得層などの所得把握、マイナンバー制度を活用した国・自治体間(さらに省庁間)の情報や税・社会保険情報の連携などだ。所得だけでなく資産も考慮するのであれば、銀行口座などとマイナンバーの紐づけを徹底する必要がある。また、生活保護など既存の制度との関係や、自治体の独自支援策(例えば東京都では子ども1人あたり月5000円を給付)との関係を整理することも必要だろう。

日本版ユニバーサルクレジットについて林氏は、モデル世帯を抽出することでより短時間での制度導入が可能と述べている。だが、簡素な仕組みにとどまれば、導入後も政府は真の困窮者を的確に把握することができず、非効率な給付措置が継続する可能性がある。また、給付付き税額控除は10年以上も前に議論されたものの、前述の課題もあって導入が見送られた。新政権は家計・企業からの理解や野党の協力を得つつ、低所得者対策をより効果的な仕組みに見直すことができるかが注目される。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司