地方圏からの預金流出のメカニズムとその影響

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2025年08月06日

地域住民が保有する地域金融機関の預金は、地域経済において重要な役割を果たしている。地域金融機関の金融仲介によって、預金は主に地域内産業、企業への貸出等に活用されることで、地域の「稼ぐ力」を資金面で支えている。ただし、少子高齢化が急速に進展している地方圏の県では、人口および世帯数の減少と相続によって、地域経済を支える原資である預金が県外に流出している。預金が流出しても地域金融機関の金融仲介が機能し続ければよいが、預金基盤が減少していくことで、地域金融機関が既存の組織・システムを維持・改善するコストが賄えなくなり、収益性が低下していけば、金融仲介機能を効果的かつ効率的に働かせることが難しくなる。

地域金融機関の預金の流出先としては、人口が集中し、相続人が多く居住している首都圏が挙げられる。流出する経路としては、以下の3つが挙げられる。

まず、地域金融機関から国内全域をカバーする都銀への預金のシフトである。日本銀行の「預金・貸出動向」のデータで銀行業態別の預金残高の変化率を見ると、銀行業態(ここでは都銀、地銀、第二地銀、信用金庫)を問わず、“コロナ預金”(2020年度から2021年度にかけて政府の給付金などにより急増した個人の普通預金)の急増の反動で伸び率は低下傾向にある。特に信用金庫と第二地銀の伸び率が低下している。その結果、銀行全体の預金残高は増加しているものの、コロナ禍を経て銀行業態の中で都銀がシェアを唯一伸ばしている。このため都銀へのシフトが進んでいると考えられる。この主な理由として、都銀が相続によって地方圏から都市圏に流出した預金の受け皿となっていること、地域金融機関等のデジタル化が相対的に遅れている、もしくはデジタル化の効果が低いこと、などが挙げられよう。

第二の流出の経路として、地域金融機関からネット銀行への預金の流出である。銀行業界全体ではコロナ禍に預金残高は増えたものの、同時にネット銀行も台頭した。この傾向は現在も続いており、最近のネット銀行主要6行(※1)の預金残高合計は2020年から2024年で1.9倍となった(各社決算データより)。とりわけ、コロナ禍以降の成長が著しい。銀行全体の預金規模(2024年度末時点で約1,000兆円)からすれば比率的には小さいものの、24年3月期の主要ネット銀行の預金残高合計は最大手の地銀を凌駕し、34兆円を超えている。

第三の流出経路としては、地域の中小企業を中心とする法人の預金口座から、ネット銀行あるいはメガバンクの提供する法人預金口座への移行である。東京商工リサーチ(※2)によれば「ネット銀行が『メインバンク』の企業が急増」としている。高い利便性と安い手数料などでメインバンクに選ぶ企業が増え続けている。加えて、SMBCグループの「TRUNK」は中小企業向けの口座・カードを軸としたデジタル総合金融サービスで、法人預金口座についても粘着性の高い預金を獲得することを目指している。地域金融機関にとっては脅威となろう。

以上を踏まえると、預金基盤の主導権争いは、地域金融機関と都銀、都銀とネット銀行の間で、本格的に激化していくであろう。このように金融サービス自体の地域特性がなくなっていく中で、将来的に「地域×銀行=地域銀行」という方程式が成り立つのかという懸念が高まっているのではないか。

(※1)預金残高1兆円超規模の銀行であるPayPay銀行、ソニー銀行、楽天銀行、住信SBIネット銀行、auじぶん銀行、大和ネクスト銀行。
(※2)東京商工リサーチ「2023年『ネット銀行メインバンク』調査」(2023年8月24日付)

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内野 逸勢
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 内野 逸勢